フェルナンデス倒産に想うこと。。
先月7月に楽器ブランドである「フェルナンデス/FERNANDES」が倒産するというニュースが飛び込んできました。少し前の話で既にNoteでも記事を書かれている方もいるのですが、フェルナンデスの倒産はどちらかというと業界の構造的な問題であるというのが私の意見でして、ギター好きの私なりにその構造的な問題を書いていきたいと思います。
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・フェルナンデスと言うブランドについて
まず、このフェルナンデスですが、どういうブランドだったかを一言で言いますと「とことんアーティストモデルにこだわったブランド」と言えると思います。
古くは80年代中盤~後半の ヘビーメタル / ハードロック 全盛時代のアーティストモデル(主にコピーモデル)の販売で勢いを得て、その後80年代後半~90年代にかけてのバンドブームによる国内著名アーティストとの数々の契約でそのブランド地位を固めたといって良いと思います。
80年代の海外ギターヒーローが使用するギターのコピーモデルは今思えば「これって大丈夫?」と言うぐらい完コピ(少なくとも見た目は)していて、海外製ギターがあこがれだった当時のギターキッズの心を鷲掴|《わしづか》みにしました。
80年代の後半以降になると、ボウイの布袋、エックス(Japan)のHIDEなど超人気バンドのギタリストがフェルナンデスのギターを使うようになり、ブランド人気も頂点を極めました。一番勢いがあったのがこの頃かなと思います。カタログも年に2回発行されたり、カラー写真集のような分厚く豪華なカタログが当時の景気の良さを表しています。
価格帯は昭和から平成前半時代、おおよそ5万円前後から高くても10万円前後が中心のラインナップで、高級ブランドではありません。あくまでも初心者や未経験者が購入を検討するブランドの一つと言う感じだったはずです。
ただ逆に言うと、アーティストモデルでブランド知名度を挙げているので、その間に落ちているニーズを拾うことが難しかったのかなと思います。つまり、布袋モデルやHIDEモデルが欲しい人にはフェルナンデスは響くんですが、ミュージシャン全体で見れば世界的にはフェンダーやギブソンなどスタンダートと言えるモデルが多くあります。フェルナンデスもアーティストモデル以外の通常モデルも発売はしているのですが、フェンダーやギブソンブランドのスタンダードと言えるデザインのオリジナリティや普遍性を獲得できず、頻繁にモデルチェンジや多品種展開を繰り返し、どうしても海外ブランドの二番煎じ、海外製品の亜流というイメージを払拭|《ふっしょく》できなかった感があります。ただ、これは国内エレキギターブランドは大差なく、国内メーカーはほとんど同じ境遇なはずですが。。
・フェルナンデス苦境の原因
これはいくつかあると思います。まず若者人口が減っていることは大きいはずです。85年に15歳である1970年生まれの人口はおおよそ210万人ですが、2010年に15歳である1995年生まれは120万人と約半分になってしまいました。もちろん、2010年以降も若者の数は減り続けています。
次に、海外ギターブランドが日本で一般的になってきたことが挙げられます。これは、フェンダーやギブソンをはじめとする海外ブランドが日本をターゲットに販売を強化してきたということです。フェンダーならフェンダージャパンがありますし、ギブソンはエピフォンやオービルなど廉価ブランドを設定して、初心者ニーズや買い替えニーズを刺激したことは、国内ブランドにとって打撃だったと思います。他にはPRS(ポールリードスミス)やMusicManなども新興ブランドとして入ってきました。
流行りの音楽の変化もあるでしょう。一言で言えば、ロックは時代の音楽ではなくなってしまったということです。今でもバンドという形態は成り立ってはいるものの、自らをロックバンドと呼ぶ売れているバンドはほとんど皆無ではないでしょうか?YOASOBIも藤井風もあいみょんも自分の音楽をロックとは言わないと思います。洋楽も同様でロックではなくヒップホップの時代になりました。エレキギター人口はロックの拡大と共に大きくなってきたわけですから、ロック音楽の衰退はギター人口の減少につながるのは自然です。
ここまでの原因だけでもかなりのニーズが削られています。1990年辺りのニーズを100とするならば、若者人口の減少で半分、海外ブランドの攻勢で半分、ロック音楽の衰退で半分とすると売り上げは既に8分の1になってしまいます。
国内競争の面でも逆風が吹いていました。
1つは、国内ブランドの細分化や新興ブランドの成長があります。それまでギターブランドの委託製造(OEM)で力をつけてきたフジゲンや、ギター工場で働いていたビルダーが独立して、オリジナルブランドのギターを作るようになりました。価格はピンキリですが、フェルナンデスなど古参ブランドにやや既視感と飽きを感じていた消費者はギターデザインの新しさやブランドの「無色さ」に好感し、市場を拡大したのです。
フェルナンデスはどうしてもハードロック / ヘビーメタル とか、Jロック、Vロックのイメージがあるため、近年の電子音やピアノをベースに曲を作るバンドが圧倒的に増えた今では、バンドコンセプトとブランドイメージが合いにくい状況が生まれてしまいました。
もう1つ流通面でも不利になってきました。中古市場が大きくなきたのです。ヤフオクやメルカリはもちろん、楽器店でも中古楽器を扱うお店が増え、新品の購入が減ってしまいました。これはもちろんどの楽器メーカーも条件は同じなのですが、仮にフェンダーやギブソンが楽器のゴールだとすれば、フェルナンデスを下取りに出すこともあるでしょうし、中古市場でフェンダーやギブソンを買えるのであれば、入門機とみなされている新品のフェルナンデスを手に取ることはないはずです。いずれにしてもフェルナンデスに有利になることは1つもありません。この辺りは完全にブランディングに失敗したと言えるかもしれません。
先ほど、マーケットが単純計算で8分の1になったと言いましたが、国内新興ブランドと中古市場の拡大がそれぞれ2分の1ずつとすれば、売り上げは32分の1になってしまうことになります。これでは立ちいかなくなるのも当然と言えば当然です。
フェルナンデスの倒産は決まったことでどうにもなりませんが、心配なのは国内の他の古参ギターブランドです。代表的なのは「アリア / Aria(新井貿易)」や「グレコ(神田商会)」でしょうか?ブランドが抱える問題は構造的にはフェルナンデスと同様のはずです。違いは両社はアリアはクラシックギターやウクレレを販売していますし、グレコは他のブランドも販売するなどフェルナンデスよりは間口が広い商売を展開している点でしょうか。
しかし、人口減少(これは日本特有ですが)やギター音楽の衰退はギターブランドにとって深刻なはずです。フェンダーやギブソンも恐らく苦しんでいるでしょう。良い木材が少なくなってきており、ギターの価格が上がり続けていることも懸念材料です(コスト転嫁が出来ないブランドは立ちいかなくなります)。
しばらくはあまり良い時代が見通せないのは間違いなさそうですが、いずれ時代が巡り巡って、「ロックってかっこいい!」とか「ギター弾いてみたい!」なんて若い人達が言ってくれる時代が再来するといいなと思っています。
ギターブランドはこの際思い切って合併やブランドの売却を通じてその歴史や音楽の熱意を後世に伝えて行ってくれたらよいかなと思っています。今でも実はギターブランドは自社で作っているところはありますが、製造委託(OEM)もたくさんあります。ギター人口は減ることはあってもゼロになることはないでしょう。これからもエレキギターを愛する人はたくさんいるに違いありません。今の困難を乗り越えた先に安定した未来も見えてくるのかなと思っています。
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