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儚くも

日曜日の昼間。
誰もいない静かな神社の参道に、
一匹の蝉が、仰向けになっていた。

近づくと、もう腕は閉じられていて、
どうにもならない事がわかった。

蝉を手に取り、裏返してみたら、
緑色の体に、透き通った羽を持つ、
ミンミンゼミ。
傷ひとつ無く、美しい。
その姿は、今にも掌から飛び立って
いきそうな程だった。

境内の、黒松が立ち並ぶ木陰。
その根元の、落ち葉が溜まっている場所に、
そっと亡骸を置いた。
蝉はいつも仰向けで死んでいて、地面しか
見る事が出来ないから、亡骸は脚を下にした。
空が見えるように。

近くに蟻が何匹かいたから、
今頃は彼らが群がって、
食料になってしまっているかもしれない。
でもそれが自然の摂理だし、
蟻を責める気持ちはないよ。

『お疲れさま。』
亡骸に声をかけ、その場を後にした。



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