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冥い(くらい)時の淵より

序 6

少女の名を呼ぶ声が、あちこちに聞こえた。
人々が慌ただしく走り回る足音が続いた。
そして、総ての報告は、少女がどこにも見当たらない、と
言うものであった。

やがて駐在が駆け付けた。
まず、少女の部屋を調べた。
全く異常がなかった。
少女が収容された時と同じ状態であった。
あたかも、少女がベッドに寝た姿のまま蒸発したようだった。
駐在は頭を抱えた。
とりあえず、村にこの件を通報する事にした。
村人の協力なしに少女の行方を捜す事は不可能だ、と考えた。
友人の夫妻は気も狂わんばかりだった。
妻は夫になだめられながら、それでも2日後に京都に帰って行った。

新聞も乗り出した。
奈良県警も捜査を始めた。
この頃、日本中にこの少女の事件は知れ渡った。
しかし、数ヶ月を経ても、少女の行方は
杳(よう)として知れなかった。
そして、謎の失踪を遂げた少女の事も、
人々の記憶から消滅するのに、さほどの時はかからなかった。

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