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OM式型取り複製覚え書き その10 複製作業のよくあるトラブルの傾向と対策

 今回は型取り複製作業でありがちなトラブルと、対処方法を書いていきます。まずはどんなトラブルがあるか、列挙してみます。

・シリコンが漏れる
・シリコンの硬化不良
・粘土剥がすときに原型持って行かれる
・キャストの硬化不良
・キャスト漏れ
・シリコン型の破損

何だかんだで良くあるトラブルですが、対処方法をあらかじめ知っていれば、リカバリー出来るトラブルです。

なお気泡対策についてはこちらの記事をご覧下さい。

シリコンの硬化剤入れ忘れ・離型剤塗り忘れ・誤キャストについてはこちらの記事です。

10-1 シリコン漏れ

こんな感じでブロック枠の外側をテープでシーリングしてます。

 少々の漏れなら、それほど気になりませんが、100g単位で漏れてしまうと結構な大惨事です。
 考えられる原因は以下の二つ。
・枠と粘土と底板の間に隙間がある
・ブロック枠の隙間から漏れてる
 枠と粘土と底板の間の隙間があるケースでは、枠の下側と底板の間に、粘土やテープでシーリングするのが手っ取り早いです。あらかじめシーリングしておけば、少々漏れても被害は最小限に抑えることが出来ます。
 ブロック枠の隙間から盛れるケースですが、ブロック内側にテープ貼ることをおすすめします。何も貼ってないと、漏れなくともブロックの内部にシリコンが入り込んで結構なロスになります。
 また私が良くやるのですが、粘土埋めがし易いように、上下でブロック枠を分割して粘土埋め後に重ねる場合、結合部分から漏れるので外側をテープで目張りしておくと、漏れが最小限に抑えることができます。
 それと大事なのは、あらかじめバットの上で粘土埋めすると、シリコンがもれても周りへの被害は最小限に抑えられるのでお勧めです。

 ここまでがシリコンを漏らさないための対策でしたが、実際に漏れてしまったらどうしたらいいのか?
 まず漏れたシリコンをヘラなどでできるだけ回収。そのあと漏れている箇所を特定して、テープもしくは油粘土で目張りすれば何とかなります。回収したシリコンはまだ流動性があるなら、また流し込んでしまいましょう。

10-2 シリコンの硬化不良

ひたすら攪拌

 シリコンの硬化不良は、二つの原因が考えられます。
・硬化剤入れたあとの攪拌不足
・古いシリコン

 粘土剥がしたら、固まっているところとそうじゃない部分があるケース。攪拌不足が考えられます。対処方法としては、固まっていない部分に一滴硬化剤垂らして、爪楊枝で混ぜてしばらく放置、該当部分に離型剤塗ってからシリコン注げば大丈夫です。冬場に多い印象ですので、粘土を剥がすのが早すぎたのも一因です。
 対策としては、硬化剤混ぜる時、容器のふちや底も意識してよく混ぜること。硬化剤も一回に入れるより、何回かに分けて入れてそのたびに攪拌することです。
 冬場に多い気がするので、粘土剥がす時にダボの固さをチェックして、プニプニするようならまだ硬化不足です。この段階で強引に粘土を剥がすと、凸ダボが千切れてしまい、切断分から未硬化部分が出てくることがよくあります。

 購入後一年以上経っている古いシリコン使うのも、要注意です。ちゃんと固まるかテストしてから使うこと。原型周りに使うのを避けてかさ増し部分に使うように。
 最近はプラ容器の銘柄が多く、早いと三ヶ月ぐらいで劣化するので要注意です。ただ劣化しているシリコンは、溶剤が抜けているケースが多い気もします。硬化剤入れれば固まりそうですが、たいていは流動性が落ちているので原型周りに使うのは避けること。気泡入りの型になり、丸いバリ付きの複製品になってしまいます。

10-3 粘土剥がすときにパーツを持って行かれる

粘土剥がすときは慎重に

 一回目のシリコン硬化後にひっくり返して粘土剥がすとき、粘土と一緒に小さいパーツや薄いパーツを持って行かれる時がよくあります。
 持って行かれたパーツを、型に戻して二度目のシリコン流すと、微細な隙間からシリコンが浸透してしまい、余計な段差がついた複製品が出来てしまいます。
 まずパーツを持って行かれたときの、リカバリー方法。要はシリコンが浸透する隙間を無くせばいいのです。型のモールド側に、木工ボンド・ブルーワックス・マスキングゾルといった粘着性が有り、剥がしやすいものを多めに塗ってから、パーツを押し込んではみ出た部分を綿棒などで拭き取ります。こうすればパーツと型がきっちり密着し、シリコンの浸透を防げます。

 では粘土に持って行かれないための対策は?
対策その1 軽く押し付ける程度にする
 きっちり粘土埋めしないで、あえて粘土とパーツの間に隙間を作る。
 この隙間にシリコンが入り込むので、粘土剥がすときにシリコン側に保持されます。粘土剥がした後に、余計なシリコンをデザインナイフでカットすればok。

対策その2 原型側面に粘土の土手をつける
 粘土埋めの水平面より盛り足した部分は、比較的シリコン側に残りやすい傾向があります。当然、土手部分が残るなら、原型もシリコン側に残るというわけです。

対策その3 粘土剥がすときは慎重に
 一気に剥がすのは危険です。何回かに分けて少しずつ慎重に剥がすのが大事です。あとシリコンがまだ柔らかすぎる段階で粘土をはがすのも、要注意。シリコンが柔らかいと保持力が低く、それだけ持って行かれやすくなります。冬場はとくに注意、粘土を剥がす途中でまだ柔らかいと思ったら、一時作業中止すること。

10-4 キャストの硬化不良

キャストは電子秤でちゃんと計量すること

 キャストの硬化不良起こす要因は以下の三つが考えられます。
・容積比での計量
・10g未満での計量
・攪拌不足

原因その1 容積比での計量
たまに勘違いしている人が居るのですが、キャストは重量比で1:1です。20gのキャストが必要なら、A液10g+B液10gなのです。ポリカップの目盛りでA液10cc+B液10ccと計って混ぜると、確実に硬化不良になります。A液とB液の比重が異なります。B液の方が比重が重いため、容積比でやっているとB液が多くなるのです。
必ずデジタル秤で1:1になるように計量すること。

原因その2 10g未満での計量
 キャストの量が少ないと硬化不良を起こしやすいというのを、経験上感じてます。その要因は秤の測定誤差にあると思います。
 特に1g単位の秤を使っている場合、0.1g単位は四捨五入しているわけです。ある程度の量があれば、この誤差は許容出来る範囲に収まるのですが、微量の計測だと無視できないレベルになり、硬化不良が発生しがちです。
 対策としては、あえて多めに計量する。もしくは、より高精度の秤を使うことです。ちなみに私が数年前に導入した、童友社製の電子秤は0.01g単位で測れます。実売価格2000円弱なのはお買い得です。

原因その3 攪拌不足
 ヘラできっちりキャストを攪拌するのは、意外と難しい物です。私も昔は何度もやらかした物でした。
 そこで知人から教わった、ヘラを使わないキャストの攪拌方法をご紹介します。A・B液別々にポリカップに計量、片方のカップにもう片方の中身を注いで、また片方のカップに注ぐ、これを5~6回ぐらい繰り返してから、注型するやり方です。この方法に変えてから、硬化不良がかなり減ったのでお勧めです。

10-5 キャスト漏れ

ラップしてから当て木するのがある意味最強かも

 大きい型だと高確率で漏れます。具体的はB5サイズ以上だと漏れると想定して、準備をしておくのが大事です。

漏れる型の応急処置
・当て木で型をサンドイッチして輪ゴム止め
・ビニール袋や梱包用ラップで包む
・キャスト漏れを想定してバットの上で注型

応急処置その1 当て木で型をサンドイッチして輪ゴム止め
 まずは、当て木を使うのがポピュラーな手段です。ホームセンターなどで型より若干大きめな板を2枚見繕います。当て木の厚みは1cm以上あるのが理想です。100均の木製まな板を流用するのも一つの手です。

応急処置その2 ビニール袋や梱包用ラップで包む
 型の下面をビニールなどでカバーできれば、漏れても最小限に留めることが出来ます。この場合は、漏れてしまうことを計算の上若干多めにキャスト注ぐといいでしょう。梱包用ラップは100均にあるので、一つあると便利です。
 この上に当て木をするのも有効です。当て木しても漏れるケースでは、当て木+ビニール袋orラップ梱包で試して下さい。

応急処置その3 バットの上で注型
 どちらかというと予防措置ですが、キャスト漏れを想定してバットの上でキャスト注型することをお勧めします。たとえキャストダダ漏れしても、床や机にキャストが貼りつく被害を防止できます。100均のポリ製バットを使えば、キャストを剥がすのも容易です。

キャスト漏れ根本的解決策
・大きい型はなるべく避ける
・大きい型を作らなければいけないときは、石膏バックアップを作る
・型の上辺に湯だまりを設ける
・硬めのシリコン使う手も
・Cクランプを使う

根本的解決策その1 大きい型はなるべく避ける
 初心者が良くやりがちなんですが、一つの大きな型に全パーツ詰め込みましたという感じの大きな型だと確実に漏れます。私の経験上B5以上のサイズだと、当て木しないと確実に漏れます。なので一つの型にまとめるより、複数に型を分けた方が安全です。

根本的解決策その2 石こうバックアップをつくる
 どうしても大きな型を作る必要がある場合、石こうバックアップを作る手があります。シリコン硬化後枠を流用して石こう流し込みます。
 石こうバックアップのポイント
・シリコン流す時に刻みシリコン投入しておけば、ダボ代わりになる
・厚みは最低1cmは欲しい
・ガーゼを仕込むと破損しにくくなる
・石こうは硬化後しばらくは水気を含んで重いので、オーブンやドライヤーなどで強制乾燥
・余った石こうは下水に流さず、硬化させてから燃えないゴミに

根本的解決策その3 型の上辺に湯だまりを作る
 あらかじめ5mmプラ角棒などを、型の上辺に配置して湯だまり(=キャストだまり)を作っておきます。万が一キャスト漏れしても、湯だまりまで到達したキャストである程度カバーできます。

根本的解決策その4 固めのシリコン使う手も
 ワッカーのM8012あたりは逆テーパーに強い反面、柔らかいのでどうしても変形しがちで、漏れに繋がりがちです。原型が逆テーパーが少なくモールドもシンプルなら、あえて固めのシリコンウェーブシリコンやワッカーのM8017使う手も。

根本的解決策その5
 ダダ漏れの一因に、型の中央部がどうしても押さえにくいことがあります。この中央部をCクランプ使って押さえるのも有りです。
 注意点としてはなるべく大きなクランプを用意すること。小さいクランプだと、厚みのある型だと挟めなかったり、肝心の中央部に届かなかったりします。最低でも10cmクラスのCクランプが欲しい所です。

10-5 シリコン型の破損
 シリコン型は量産を重ねるにつれ、破損しやすくなってきます。特にダボ穴などの凹モールド部分が、負荷がかかりやすくて千切れやすい傾向です。ここが千切れると、凹モールドが埋まった複製品になってしまいます。

 千切れたシリコンをどう補修するか?
 お勧めなのが信越のKE45-Tというチューブ状のシリコン。モノタロウで1000円切るくらいのお値段。

モノタロウさんのキャプ画像

 これがシリコンの接着剤代わりになります。爪楊枝などで破断部に少し塗ってから、千切れた部分をくっつけます。硬化までは余裕もって半日くらい待つことが多いです。
 あるいは同銘柄のシリコンを使うのも有りです。缶からヘラで少量取り、硬化剤を適当に数滴混ぜて接着剤代わりに。この場合は、シリコンと同じくらいの硬化時間がかかると思って下さい。
 注意したいのは、シリコンに効くタイプの瞬間接着剤。このタイプの瞬着は、確かに接着できるのですが、次回でまた同じ所が破損してしましますので、お勧めできません。
 なお本当の意味での型の破損は、複製品にシリコンが貼りついてしまい、剥がれない状況です。こうなってしまうと、一から型を作り直すしかありません。

ではシリコン型の千切れるのを防ぐ対策は?
・原型の深すぎる凹モールドは避ける
・逆テーパーにならない向きで粘土埋め
・シリコンの硬化剤を半分に減らす
・いいシリコン使う
・千切れやすそうな部分に離型剤重点的に塗る
・凧糸や不織布などで補強する

対策その1 深すぎる凹モールドは避ける
 特に危険なのがダボ穴です。2cm以上の深さがあるとかなりの確率で千切れます。1cmぐらいでも、粘土埋めの向きや抜きの回数次第で千切れやすくなります。
 深い凹モールド部分はできるだけ、垂直方向に上向くように粘土埋めするのが重要です。この向きが型の負担を最小限に抑えることができます。
 逆に真横に向けて粘土埋めしてしまうと、型の負担が大きく千切れやすくなります。これを意識して粘土埋めするのが大切です。

対策その2 逆テーパーにならない向きで粘土埋め
 シリコンゴムはある程度の柔軟性が有り、少々の逆テーパーでも少数であれば、力業で行けるケースもありますが、回を重ねるごとにゴムは固くなっていき型の破損に繋がります。
 あらかじめ原型の段階で、どの向きで粘土埋めすれば、逆テーパーにならないかを検討しておくのが大事です。負担の大きそうなパーツ形状なら、分割や三面型を検討すべきです。

対策その3 硬化剤を半分に減らす
 シリコンの硬化剤は、規定だとだいたい4%ぐらいの銘柄が多いのですが、夏場などに半分に減らした型だと柔軟性が維持しやすく、結果的に数が抜ける経験があります。なので冬場でも硬化剤半分にしているというディーラーさんを聞いたことがあります。ただし冬場に硬化剤半分にすると、その分時間がかかりますので、加湿器など別の硬化促進対策を徹底すること。

対策その4 いいシリコン使う
 10年以上前に、はじめてベルグのシリコン使ったとき、千切れにくいことに感動した記憶があります。このレベルの高級シリコン使えば、50個は軽く抜けます。
 ただし逆テーパーや深いダボなど、千切れるときは千切れますので過信しないように。

対策その5 重点的に離型剤塗布
 シリコン型の千切れやすい箇所は、複製品が外しにくい所でもあります。そのような所には、重点的に離型剤を多めに塗るのも一つの手です。

対策その6 凧糸や不織布などで補強する
 シリコンを流す段階で、千切れそうな箇所に凧糸や小さくカットした不織布を、仕込むやり方があります。少量のシリコン流した後、ピンセットで該当箇所に差し込んでから、シリコン流します。
 こうすることで、たとえ千切れかけてもある程度は形が維持でき、補修する猶予ができます。

注意 3Dプリンター出力品は微細な積層痕が残っていると、いいシリコン使っていてもすぐ型が破損します。きっちり表面処理して積層痕を消すこと。

 最後にトラブル発生時に極度に焦るのは、かえってミスの連発に繋がりやすくなります。イベント直前だとかなりテンパりますが、冷静になってリカバリー方法を模索すること。
 最悪の場合は、ペナルティ回避のために販売を諦めて、サンプル提出を最優先する決断するのも大事です。


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