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続∶午睡とピクニック #1
ブラインドを閉めた部屋に、静かに雨音が聞こえてきた。寝室のベッドで、浴室から上がったばかりの、こゆりのやわらかい髪にまとわりつく透明な水滴を、ぼくはふかふかのコットンのタオルで乾かしていた。こゆりは、頭皮が弱く、ドライヤーが使用できないのだ。
ボディソープのあまい香りがこゆりを包む。それだけで、ぼくは酔いそうになる。
「…碧ちゃん、どうしても眠らないと、いけないの?」
まっすぐな口調に、すこ
続∶午睡とピクニック #2
甲斐のため、なにかドリンクを出そうと、冷蔵庫に手を掛けると、姉さんが茶化してきた。
「お酒でも飲むつもり?愛車がおじゃんだし…マスコミ沙汰になるわよ。“モデルkai 飲酒運転で逮捕”とか。そんな馬鹿なことより、はい。これ、投げるわよ」
姉さんが、シャネルのバッグからペットボトルを取り出すと、軽やかに甲斐の手の中にそれを放った。
「わっ……おっ……おっと…」
けんけん足で、どうにかバランスを保ち
続∶午睡とピクニック #3
ぼくは、水をひとくち含み、ゆっくりと瞳を閉じる。
「そうなんだ、その今は無きMO-VEの、出版社で新入りのスタイリストをしていたのが、こゆりだったんだ」
姉さんが瞠目する。
「まさか…だってはっきり言わせてもらうけど、まだ未成年でしょ?」
「あはは。やっぱりそう思うよね。若く…というより、幼気な印象だから…」
ぼくは、再び、水を含んで、先を続けた。
「で、そのMO-VEで、働いていた
続∶午睡とピクニック #4
「こゆり!待って!」
ガチャガチャと、慣れない手つきで、玄関の扉を開けて出ていく、こゆりを、ぼくは必死に追った。あんなに小さな身体のどこに、こんなスピード感があるなんて。信じられない。長い髪を左右に振り、キャミワンピースの裾から覗く、ふたつの細い素足で、駆けていく。
こんなのは嫌だ。
ぼくから去っていくこゆりを追いかけるのは嫌だ。
素早い小動物の様に、こゆりはエレベーターに乗り込み、ぼくが追
続∶午睡とピクニック #5
カタッと小さな音がした。
ぼくの心臓が早鐘を打ちはじめる。
「あなたは少し待っていてね、こゆりちゃん。少し、碧に言っておかなければならない事があるの」
姉さんの声だ。
「…碧」
「姉さん?」
ベッドの上に、ストールを抱きしめたまま、黙り込むぼくの背中に、姉さんが、そっと手を伸ばし、上下にさする。
「私、帰らせてもらうわね。目的の話も出来たし、十分だわ。それから…」
姉さんは、ひと息ついて
続∶午睡とピクニック #6
こゆりの妊娠が発覚してから、約3ヶ月。まだ、お腹の膨らみは殆ど無い。
けれど、元々身体があまり強くないこゆりは、必ず難産になると、医師は告げる。ぼくも、事務所に話をつけて、子供が産まれる前後の長期間、休暇を取った。今迄、仕事依頼を文句一つ言わず、引き受けてきた。その信頼関係は、何よりの強みだった。
「わあああ。海外にはこんな素敵な教会があるのね。虹のかかる教会とか…ね?碧ちゃんは、どんな式場が良
続∶午睡とピクニック〜 終章〜
3月。外はまだ寒い。
ぼくが、こゆりをマンションに連れてきた日は、雲が低く垂れこめ、細い雨が降り注いでいた。
「はい。今日からここが君の家だよ」
玄関の、鍵を開けてこゆりを中へ案内したとき、情けなくもぼくは、もの凄く緊張していた。今まで、女の子を家に招いたことなんて無かったから、とにかく、ここが安全な場所だと思ってもらいたかった。
「お腹減ったでしょう?なにか作ろうか?」
ぼくの問いに、こゆ