【小説】こたつにて

男:ちょっとティッシュ取ってくれ。
女:無理。取れない。
男:お前の方にあるんだから、取ってくれよ。
女:届かないもん。
男:ちょっとこたつから出て取ってくれればいいだろ。
女:やだ。寒いもん。
男:今日はそこまで寒くないだろ。
女:それならあなたが取れば良いじゃない。
男:いや、もう俺、ミカンむき始めてるんだよ。
女:だから何なの?
男:ミカン、裸で机に置かなくちゃならないから。
女:どういう理屈なの?
  自分でもおかしいと思わない?
男:思うけど、もう、すっと取ってくれればいいだろ?
女:嫌よ。
男:お前、いつからそうなった?
  昔は会社まで忘れ物、届けに来てくれたりしたじゃないか。
  今は目の前のティッシュさえくれないのかよ。
  だんだん本性が見えて来たな。
女:別に本性を隠してた訳じゃないわ。
男:隠してただろ。どう考えても。
女:あの時はあの時で、あれが本性だったの。
  で、今日は今日で、これが本性。
男:要は、あの時と今日で、お前の言う『本性』が違うわけだろ?
  ってことは、前の『本性』は『偽りの本性』だったという訳だな。
女:違うわ。
男:どこが違うんだよ?
女:優先順位が変わっただけ。
  あの時は「あなたに忘れ物を届ける」のが優先。
  それで、今日は「暖を取る」のが優先。

女はミカンを取る。

男:分かった、もういいよ。

男はミカンの皮をむく。

女:ティッシュはいいの?
男:もういい。
女:ふっ。

女は笑う。

男:何笑ってるんだよ。
女:別に。

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