【小説】お化け屋敷にて

男:暇っすねー。
  まあ、こんな田舎の遊園地で、しかも今年一番の寒波の日っすからね。
  お客さん来ないっすよね。
  しかも、冬はお化け屋敷って感じじゃないっすもんねー。
  聞いてます?志乃さん?
女:お化けは喋らない。
男:志乃さんはプロっすねー。
  でも、口裂け女なら、少し話してもいいんじゃないっすか?
  人よりも口が大きいんだから。なんちゃって。
女:口裂け女が話すのは襲うときだけ。
  ミイラ男は一言も話さない。
男:分かってますけど。朝から誰も来てないっすもん。
  退屈で死にそうっすよ。
女:ミイラ男は死んでる。
男:もう冗談通じないんだからー。
女:冗談はここに必要ないわ。
  お客様はここにリアルを求めに来てる。
男:そうっすか?エンターテイメントを求めに来てるんじゃないっすか?
女:言葉が違うだけで本質は同じだわ。
男:そうっすかね?
  ていうか、志乃さんバイトっすよね?
  なんでそんなにプロ意識高いんすか?
  バイトなら気楽にやればいいんじゃないっすか?
  プロじゃないんだから。
女:言葉が違うだけで本質は同じだわ。
男:志乃さん、哲学的っすね。
女:哲学的って便利な言葉よね。
男:そうっすか?
女:納得してないのに、納得したように見せたいときに、便利だわ。
男:なんか、なんだかんだで志乃さん結構、喋ってくれるっすね。
  嬉しいっす。
  なんか志乃さんと心の距離が近くなったような気がするっす。
  俺、ミイラ男だけど血が通ってきた気がするっす!
女:なかなか哲学的ね。

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