【小説】美術館にて
男:あの?
女:はい?
男:突然話しかけて、すみません。
少しお話いいですか?
女:どうぞ。こちらへお掛けなさいな。
男:ありがとうございます。
私、この美術館によく来るんです。
女:そう。私もよ。
男:ええ、そうなんです。私が来るときいつもいらっしゃる。
それで、どうしても気になってお声かけさせて頂いたんです。
女:おほほほ。それはそうでしょうねえ。私、毎日来てますもの。
男:毎日ですか?
絵がお好きなんですね。
女:ううん。そうでもないわ。
男:え?では、なぜ?
女:この美術館が好きなの。主人とよく来たものだわ。
主人は絵が好きでねえ。
ここに私を連れてきては、絵について語ってくれたわ。
男:そうだったのですね。
女:そんな主人も昨年、他界しました。
でも、ここへ来ると、思い出が蘇ってきて、
主人に会えたような気分になれるの。
男:絵ではなくて、思い出を観に来られていたのですね。
女:あら、お上手だこと。
男:いえいえ。
女:あなたは絵がお好きなの?
男:ええ。特にこの美術館の絵は格別です。
女:あら、そうなの。じゃあ、私に絵を教えてくださるかしら。
男:もちろんですが、ご主人に教えて頂いたのではないですか?
女:ええ、たっぷりとね。でも他の方のお話は聞いたことないの。
たまには浮気してみたいわ。
男:浮気ですか。
女:だめかしら?
男:いえいえ、ご主人に怒られない程度にお付き合いさせて頂きます。
では、まずはあちらの絵から。
2人は立ち上がる。
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