Magical Science 第1話 旅立ち
ここは今より1000年後の未来、誰もが魔法を使える世界である。人々は、魔法により監視され、まるでロボットのように管理されていた。毎日が同じことの繰り返し、なんのトラブルもない生活により、人々の目から光は消えていた。
そんな中、夢と希望に馳せる少年がいた。
「なあ知ってるか。この世にはどこかに『大いなる宝』が眠ってるんだってよ。」
目を輝かせながら話す彼は、ロバート・ワトソン 12歳。通称『ワット』この物語の主人公である。
ワットは暗い部屋に魔法で明かりを灯しながらそう言った。
「そんなものあるわけないでしょ。」
そう冷ややかに返した女性は、キャサリン・ミラー。ワトソンの幼馴染、通称『キャシー』。
「でも、ワットの言うことが本当だったらすごいよね。」
ワトソンのことを『ワット』と呼ぶ小柄な男性は、ニコラス・テッセウス、通称『ニコ』。彼もまたワトソンの幼馴染である。
「本当に決まってるだろう。この世にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだ。みんなはお宝を見つけてお金持ちになりたいとは思わないのか?」と笑顔で話すワットに対し、キャシーはまたまた冷淡に答える。
「そんなの知りたいと思わないわ。そんなことよりも将来偉い人になって、お金持ちになるほうがいいわよ。」
「まったくキャシーは夢がないな~。僕はワットの言うことを信じてるよ。」
「じゃあ、大人になったらみんなで『大いなる宝』を探す旅に出よう!それまでにいっぱい知識を身に着けて、体力もつけて、宝はみんなで山分けだ!」
「僕は運動が苦手だし、自信ないな~。」
「自信がなくても、宝を見つけたいっていう気持ちがあればどんな試練も乗り越えられるよ。もちろんキャシーも来るだろ?」
「なんでアンタはいつもそんな自信たっぷりなのよ。私も行くに決まってるでしょ。私がいなかったら、あんたたち心配でしょうがないんだから。」
そういって3人は手を取り合った。
「よし!じゃあいつかみんなで旅に出よう!これから先俺たちは仲間だ。何があっても俺たちはお互いに助け合う。このことを誓えるか?」
「誓うわ。」
「誓います。」
「よっしゃー!じゃあ明日から学校頑張るぞー!」
「まったく、張り切っちゃって。」そう言いながらもキャシーの目は笑っている。
こうして少年少女たちの『大いなる宝』を巡る物語が始まる!
ー10年後ー
「「魔法省の就職おめでとう!!!」」
お祝いの口上と共に、グラスがぶつかり合う音が響き渡る。
「いや〜、やっぱりワットはすごいな〜。あの魔法省に就職するなんて。」ニコが言う。
「まさか3人で1番バカだったあんたが、エリートになるとはね〜。」キャシーが嫌味たらしく言う。
「別に俺はバカじゃねぇーよ。」ワットは淡々と答える。
「あんた10年くらい前に、『俺は大いなる宝を見つける!』とか言ってなかったっけ?その夢はどうしたのよ?」
「そうだよ〜。僕はワットの夢を応援してたのにな〜。」
「別に。俺は現実を見ただけだ。国家公務員になれば親に楽させてやれると思っただけだよ。第一そんな宝があるとは限らないだろ。」
「いや、10年前と言ってることが逆なんですけど…」キャシーは目を細めながら呟いた。
「でも僕は知ってるよ。なんでワットが法務省とか国土交通省とかじゃなくて、魔法省を選んだのか。」そういったニコに2人の視線が集まる。
「私知りた〜い。」
「それはね。魔法省にはこの魔法界で起きた出来事がすべて記録されてるんだ。もちろん学校で教えてくれない歴史とかもね。ワットはそこに『大いなる宝』のヒントがあると思って、魔法省に入ったんでしょ〜?」
「お前は陰謀論の見過ぎだ。」
得意げに言うニコに対して、ワットは頭を軽く叩いた。
「魔法省が各省の中で1番でかくて、1番給料が貰えるからだよ。」
「本当かな〜?」ニコがニヤけながら言う。
「本当だよ。それより2人も大企業に就職したんだって。お前らこそすごいじゃないか!」
「誰かさんが旅のために準備しとけって言うからね〜」またまたニコはニヤけながら言った。
「ま、私はこうなるだろうとあの時から思ってたけどね。」
そういうキャシーに対して、ニコが声を荒げる。
「なんだよ!キャシーもノリノリだったじゃん!」
(子どもの頃はそんなことも言ったっけ…今はこの楽しい時間が永遠に続くことだけが1番の願いだよ)ワットはそう思いながら、グラスの中身を口に運ぶ。
それから数時間、3人は過去の思い出や未来への展望を肴に酒を嗜み、その日は解散した。ワットは家に着くなりすぐに寝てしまった。
ードンドンドンー
煩わしくドアを叩く音とともにワットは目を覚ました。
(こんな朝早くから誰だ?)ワットは、そう思いながらドアを開けると、そこには2人の警察官が立っていた。
「我々はB区の警察官です。」1人の男がそう答えた。
この国では国全土がA区からD区の4つ分けられていて、4つの区の中央に中央区がある。中央区は選ばれたエリートしか住むことができず、A区からD区にかけて順に、土地の価格も治安も下がっていく。なお、ワットは魔法省に就職が決定してから、A区に住んでいる。
「B区の警察が、わざわざA区になんの用ですか?」ワットは尋ねた。
「ニコラス・テッセウスという人物は、あなたのご友人ですよね?」
「はい、そうですけど。彼に何かあったんですか。」ワットは恐る恐る聞いた。
「今朝から彼が行方不明なんです。今B区の署では、キャサリンさんに話を伺っているところです。あなたもお話を伺うことはできますか?」
それを聞いた瞬間、ワットの顔は青ざめ、血の気が引いていった。
(何だ。つい昨日まであんなに楽しく飲んでたのに、何があったんだ。)そう思いながらワットは「はい。行きます。」と答えた。いや、そう答えることしかできなかった。そうしてワットと2人の警察官は、空飛ぶ馬車に乗ってB区の警察署まで向かった。
B区警察署での取り調べが終わり外に出ると、そこにはキャシーが待っていた。
「ニコ、大丈夫かな…」キャシーは震える声で小さくつぶやいた。
「あいつならきっと大丈夫だ。それよりさっき取り調べを受けている途中に、視線を飛ばして事件の資料を見てたんだけど…」ワットが言い終わる前にキャシーが遮った。
「あんた、大事な取り調べの最中に透視魔法使ったの!?バレたらやばいでしょ!」
「現にバレてないし大丈夫だろ。何よりニコの為だ。」ワットは落ち着いた様子で続けた。
「それより事件資料を見てたら、ニコの家から魔力の残滓が残ってたらしい。」
砂上を歩くと足跡が残るように、魔法を使うと、その痕跡が残る。それが魔力の残滓である。
「そんなの、ニコが家の中で使った魔法の残滓じゃないの?」キャシーは訝しげに言った。
「いや、俺はこれは犯人の残滓だと睨んでる。俺の勘だが…」
「勘じゃダメでしょ…」キャシーは肩を落とした。
「とにかく、魔法が絡んでる事件なら魔法省に情報が来るかもしれない。だから俺は今から出勤するよ。お前も気をつけろよ。」ワットはそう言って浮遊呪文を唱えて飛び立った。
「あんたこそ気をつけなさいよ…」ニコはポツンと呟いた。
ーー魔法省本部ーー
「随分遅い出勤だな。お前はいつからそんなに偉くなったんだ。昨日入社したての分際で。」
嫌味たらしく言うこの男は、マリナード・アイン 通称『アイン』。ワットと同期で入社した男である。
「遅れるという連絡はしたはずだが。」ワットは気だるそうに返した。
「何があってもお国のために参上する。それが国家公務員というものだろう。」
などとのたまうアインを無視し、ワットは魔法事件部へと向かった。
魔法事件部では、今までおきた魔法による犯罪のすべてが紙媒体に記録されている。
「ここ1週間以内に起こった行方不明事件のみ表示せよ。」ワットは魔法を唱えた。
(この1週間だけでこんなに行方不明者がでているのか。週を重ねるどとに増えているな。)
この世界では、国民1人1人に魔法による刻印、いわゆるGPSがつけられている。この刻印が機能しなくなった者をここでは行方不明者と言う。
「君はここの所属じゃないだろう。どこの所属だ?」
ワットが資料を読んでいると、後ろからいきなり話しかけられた。声の主は事件部の部長だった。
「俺は昨日入社してまだ配属先が決まってないのですが…」ワットは事の顛末を話した。
「魔法省では、新入社員は1週間かけて各部署を周り適正を判断するのだが、君はこの事件部に向いているかもな。私が人事部に掛け合っておこう。」
「ありがとうございます!」(話の分かる人で良かった)ワットは心の底からそう思った。
さっそく魔法事件部での仕事が始まった。事件部の業務内容は様々だが、さっそくワットは部長に進言した。
「近日、日を追うごとに国民の行方不明者が多発しています。私は即刻この事件に関する対策チームを立ち上げるべきだと思います。」
ワットは周りの視線を一身に浴びた。新参者がいきなり発言したのだから当然である。
「しかし、すべての行方不明者事件が同一犯の犯行によるとは限らないのだが…」
「それの検討を踏まえての対策チームです!」ワットは強くでた。一刻も早く親友を救い出したい一心からだった。
「そして対策チームの1人は、私から部外者を推薦したい。」
これにはさすがに周りからのヘイトを買った。しかし
「君の好きにしなさい。」上司は優しく語りかけた。
「ありがとうございます!さっそく親友に声をかけてきます。」そういってワットは魔法省を飛び出した。
ワットが部屋を出た後、事件部の1人が声を荒げた。「さすがに新人に甘すぎます!どうなさったのですか!?」
「上からの指示だ。ワトソンという社員が入ってきたら彼のすきにさせろとな。もっとも、私はその真意は分からんがね…」上司は薄ら笑いを浮かべた。
ーーワット宅ーー
「お前、今すぐ会社を早退して俺の家に来い!」ワットはキャシー宛に手紙を送った。(魔法で送ったからもうすぐ返事が来るだろう)そう思いながら、ワットは家で持ち帰った捜査資料をまとめていた。
「ちょっとこれどういうこと!?」キャシーが怒りながら家にやってきた。
「俺が部署でニコの行方不明事件の対策チームを立ち上げた。お前がチームに加われ。」
「なんであんたはいつもそう勝手なの?私の仕事はどうするのよ。」
「魔法省からお前に期限付きの業務委託をするって形になる。報酬も払うし、お前は休職するか退職しろ。」
「まだ出社してから1日しか経ってないんですけど!?」
「ニコのためだ。嫌なら俺が退職届出してきてやる。」
「分かったわよ!やればいいんでしょ、やれば。あんたは昔からそうなんだから。」キャシーはため息をついた。
「で、具体的に何をするわけ?」
「まずは俺が持ってきた捜査資料から、行方不明事件の共通点を見出し規則性がないか判断する。そして次の犯行現場を予測する。」
「そこで犯人を捕まえるわけね。」
「That's Right!」
それから2人はひたすら資料を読み込み、共通点を探した。いくら探しても、犯行現場も行方不明者の性別も年齢も職業もまったくのバラバラだった。しかし2時間後
「これだ!」ワットが叫んだ。
「ここ1週間の行方不明者は全員A区もしくはB区出身の富裕層で、学生時代の偏差値が70を超えてる優秀な人達だ。それに全員陰謀論信者だ。」
「最初に言ったことはともかく、なんでみんな陰謀論信者だって分かるのよ。」
「実は魔法事件部の人間は、国民1人1人の刻印の情報を閲覧する権限を持っているんだけど、1週間以内の行方不明者の刻印の履歴をチェックしたら、全員陰謀論系の本やテレビを見ていた。これはとても偶然とは思えない。」
「待って!私たちが生まれた時に刻まれる刻印ってそんなことも分かるの!?そんなのプライバシーの侵害よ!」
「これが俺らのトップのやり方なんだからしょうがないだろ。それに俺らの行動が監視されてるなんて今に始まったことじゃない常識だろ?」
「確かにそうだけど、そこまで細かく見られてるのはさすがに…」
「そんなことより、さっき言った条件に当てはまる人がどれくらいいるか調べよう。」
ー数分後ー
「ざっとこんなもんね。で、どうすんの?」キャシーは行方不明者のリストを机に置きながら尋ねた。
「この中の1人に当たりをつける。そして犯人が現れるまでそいつをひたすら尾行する。」
それからワットとキャシーは尾行を続けた。不審な人物が現れたのは実に3日後のことだった。
ーTo be continuedー
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