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突然吹奏楽部の顧問になる⑻

 学校5日制が完全実施となり、進学校では大学受験対策の課外講習や模擬試験が、平日放課後・土日に行われるようになりました。
 そうなると、「校舎内で練習する×音を出す×大会が8月にある」吹奏楽部は、今までと同じように練習をすることが難しくなります。
 音を出す場所にも制限や配慮が必要です。土日の練習も、模試や補習と日時が重なることがあります。そもそも、顧問である私が課外講習の講師ですから、合奏できません。
 そういう変化を理解して、「では、どうしましょうか」と発想できる生徒さんばかりではありません。「今まで違う」「もっと自由に練習したい」などなど、解決のない不満にとらわれ、変化に対応できない生徒さんも少なくありませんでした。

猛練習が金賞を導くという考え

 中学時代、吹奏楽強豪校に所属していた部員の多くは、猛練習派です。
 で、中学時代どれくらい練習していたかというと、年間のオフが数日なんですね。朝練・放課後は毎日で、休日も練習か、もしくは本番。
 吹奏楽コンクールはこんな感じに続きます。
 ・7月 地区予選
 ・8月 県大会
 ・9月 地方大会
 ・10月 全国大会
 で、お盆休みもそこそこに、練習なんですね。
 で、これが終わると、すぐにアンサンブルの大会があります。
 ・12月 アンサンブルコンテスト地区大会
 ・1月 アンサンブルコンテスト県大会
 ・2月 アンサンブルコンテスト地方大会
 ・3月 アンサンブルコンテスト全国大会
 というわけで、お正月休みもそこそこに練習です。
 もちろん「全国」という価値はすばらしいもので、そういう体験ができるなら…と考えることに異論はありません。ただ、猛練習を肯定しているのは、「やる気のあるやつだけで頑張る」「ついてこれない奴は辞めろ」「少数精鋭」という排他的な発想であることがわかってきました。
 それは…ちょっと違うのではないか…と個人的に思っていました。
 確かに、「音楽は、その価値を理解できる人のもの」という価値観があります。しかし、「音楽は、万人のもの」でもあります。
 「全国を目標」にして、それ以外のことを我慢にして、何かを犠牲にして努力することを否定するつもりはありません。
 しかし、「音楽は猛練習に耐えられる人だけのもの」ではないような気がします。そこまで、「アマチュア」「教育活動としての部活動」に求めていいのか??

中学と高校の違い

 中学校の吹奏楽部は、そこで楽器に触れる人が多いです。全員初心者からスタートしますから、「上達・演奏の完成度は、練習時間に比例する」という現実があります。
 一方で、高校は経験者がほとんどです。幸い部員が多く、高校で楽器を始める初心者を、夏の大会に出す必要もありません。つまり、「練習時間×練習の目的・意味・工夫」が演奏の完成度を導きます。これは、私が高校時代在籍していた「市民オーケストラ」で学んだこと。
 団員は、お仕事や家族などを抱えつつですから、練習に出れない時もあります。そこで信頼と音楽とを支えていたのは、「プレーヤーの責任」の自覚。勉強で言うと「予習」してくる、自分の楽譜は弾けるようなった状態で合奏に参加するということです。
 お仕事とも共通する部分がありますが、「みんなで集まる時は、みんなで集まった時にしかできない練習をしよう」ってこと。個人でもできる練習を、みんなで集まる場ですることはできるだけ避けようです。
 極論すると、「6月1日(金)17:00から、アルメニアン・ダンスの合奏をします」「全体的に縦横を確認して、余裕があれば、フィナーレの部分の表現をあわせます」でいいわけ。あとは、個人・パートで「良い合奏」にするための練習・準備をしてくれればOK。 
 しかし、そういう方向には進まないんですね。
 部員を「拘束」したがるのです。

気づいたこと

 その頃、私が指示していないこと、部員内で話し合ってもいないことが、「決定事項」となっていることに気づきました。
 「いつ、決まったの?」と部員に問うと、
 「え、先生の指示じゃないんですか」と返ってきます。

 その頃、猛練習派の部員がよく私に「相談」をもちかけていました。
 内容は、「練習をこのようにしたい」というもの。別に、反対するような内容でもないですし、「みんなと相談してみれば」「試してみれば」くらいの返事をしていました。
 その部員が、放課後の練習で部員に「こうしよう」と言います。その時、「顧問の先生には了承を取った」と続けます。そうなると、他の部員は逆らえないんですね。そして、その生徒の考えが「顧問の命令」として部内に伝達されるのです。
 これが練習内容だけでなく、いろいろな場面で広がっていました。
 というわけで、部長・副部長に相談すると、「やっぱり…」と。
 部長たちも、「おかしい」と思っていたそうで…。さて、どうしようかとなりました。該当部員をとっちめるではあまりよろしくないだろう。
 もう一度、「部員主体の部」であることを確認しましょうで合意しました。私は口を出さないです。
 ただし、冒頭に記したとおり、平日放課後や土日に「受験課外や模擬試験」があり、その実施に配慮しつつ練習をする必要はある。
 なぜなら、「ルールを守って勝つこと」が重要だから。
 「ルールを破って勝っても価値はない」「ルールを破って負けるのは最高に格好悪い」ですね。
 そして、「吹奏楽部を理解をしてくれる人、味方になってくれる人、応援してくれる人を増やした方がいいんじゃないか」という結論になりました。結果が良いから認めざるを得ない…という部活動にはならないようにということです。

言葉でいうのは簡単ですが…

 「進学校の部活動×進学とコンクールとの両立」ということを考えていくと、「集団としての計画性×個人の尊重」が重要になります。
 そこで求められるのは、「部員の自主性×知恵と工夫×個人の自覚」。
 猛練習派の考える「顧問の先生の言うことを聞く×精神論×全員で心を一つに」とは、真逆と言えるでしょう。しかし、「部員の自主性」は私の方針ではなく、前の顧問先生や卒業生が構築してくれた「無形の財産」の一つです。
 しかし、いつの間にか、「顧問が部員の自主性を奪った」になっていました。
 「私のわきが甘い」と言われればそれまでです。しかし、こういう流れで陥れられた先生も少なくないのではないでしょうか。
 冬のアンサンブルコンテスト、全国を目指し必勝を期した「猛練習部員チーム」は県大会銅賞で終わり、「無欲な普通チーム」が地方大会金賞まで進みました。全国一歩手前です。
 そして、私は吹奏楽部OB会でつるし上げ(?)にあいます。

                       つづく…
 
  
 

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