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41 源氏17歳 夕顔の巻㉙ 旧暦は難しい 悲愁へのカレンダー

・ 旧暦の記述は難しい

空蝉の去る10月1日は立冬ですし、五条で唐臼の音を聞く八月十六日早朝には隣近所が寒がっています。
二十四節気の気名やの様子は、当時の読者にとっては日付が書いてあるのと変わらない実感があったのでしょうが、今の季節感とは乖離して、原作の旧暦の記述をそのまま読むと戸惑います。
旧暦の閏月は割と頻繁にめぐってくるようですし、旧暦の何月何日は今の何月何日頃とは、誤差が大きくなりすぎてなかなか言えなそうなのですが。
忍んでいく夜の描写の多い物語で、月の示す日付や時間がわからないのは心許ないことです。
そこで、こんな年もあったかもという程度ではあるのですが、源氏17歳の梅雨明けから立冬までを2023年のカレンダーに乗せてみました。

・ 空蝉との出会い

空蝉とは、雨夜の品定めの後、梅雨が明けて左大臣邸に戻った後、方違えに向かった紀伊守邸で出会います。
年によるばらつきはあるでしょうが、現在の関西の梅雨明け日は平均して7月19日だそうですから、空蝉との出会いもまあまあそんな頃だと考えることにします。

弟の小君に命じて空蝉の寝所に引き入れさせようとするのは、臥待月、2023年のカレンダーなら8月5日(旧暦6月19日頃)の頃でしょうか。
月の出の遅いのに紛れて「夕闇の道たどたどしげなる紛れに」出掛け
📖 夕闇は 道たどたどし 月待ちて 帰れわが背子 その間にも見む
帰る時には月明りで老女に見咎められます。

2023年 各月日の月の出の時刻


8月5日なら月の出は21:10で入りは08:32だそうですから、状況は合いそうです。
この夜には結局空蝉に逃げられ軒端荻と契ることになり、心は残しつつも苛立ちが勝って空蝉へは文を遣ることさえやめます。

・ 夕顔との関係

2023年のカレンダー8月16日(旧暦7月1日 立秋の頃)、六条御息所の邸から朝帰りの時には、まだ夕顔の閨への侵入は成功していません。
いつ通い始めたのかわかりませんが、2023年のカレンダー9月29日(旧暦8月15日頃)には、すっかり五条の家に入り込んでいます。
9月末の早朝なら、隣近所で寒いねえとかこち合うのも納得がいきます。

17歳の夏からの源氏カレンダー(2023年に移してみた)

・ 17歳までの女性関係

7歳から12歳の間に、5歳上藤壺宮が父帝に入内し、御簾内にも同伴され慕うようになる。
12歳で元服。
その日に、最高権力者の娘であり、4歳上葵上と結婚。
藤壺宮と近しく会うことができなくなるが思慕だけは続いている。
7歳上の六条御息所と愛人関係になるが、落としてしまえばつまらなくなり、和めない気位の高さが目に付いてきた17歳。
※ 内裏、左大臣邸、二条院の全てで、お気に入りの女房にちょっと手を出すようなことはカウントされていないのではないかと疑っています。

・ 駆け足の17歳

(今の暦で)
その年の7月下旬、宿直の世間話から中流の女に興味を持ち、受領の若い妻、とはいえ源氏よりは6歳上の空蝉に執着する。
言い寄っても埒の明かないことにうんざりしはじめた8月半ば、五条の貧し気な家に住む2歳上の経産婦でもある夕顔に通い始めて溺れる。
9月末には夕顔を物の怪に奪われる。
10月末まで病悩と謹慎。
11月半ばには空蝉の離京。
空蝉を思ったのは2週間余り、夕顔とはひと月続いていたのかどうか。

駆け足の17歳でした。

・ 短期集中

7月下旬からの2か月の間に二人の中流の女に没入する性急さに驚きます。
でも、あんなに熱くなったのに空蝉に向かったのが2週間余りだったのも意外です。
屈辱感が執着を超えたからなのか、次の相手を見つけたからなのか。
こんな短期間なのに、夕顔との関係は同時進行はしてはいません。
葵上や六条御息所との関係を同時進行と呼ばなくていいのかどうかよくわかりません。

・ 源氏を取り巻く高貴な女性たち

初めて知る中流の世界に夢中になった源氏です。
一の院、先帝、前坊などの血縁がよくわからないのですが、仮説的に系図を作ってみました。
気楽な女が欲しくなる息詰まる関係図であると同情すべきなのかどうか、私にはわかりません。

仮説:源氏を取り巻く高貴な女性たち

                        眞斗通つぐ美


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