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47 なんちゃって図像学 若紫の巻(5)⑥ 眠れぬ夜 山荘の瀧



・ 旅寝の夜

源氏は病み上がりでもあり、すっかり気落ちしてしまっています。
雨が少し降って、冷たい山風が吹いて、遠くない瀧壺の水嵩も増しているようで聞こえる瀧の音も高くなっています。
少し眠そうな読経が絶え絶えに聞えるのも物寂しさを増しています。
誰でもこんな所にいれば物思いもするのでしょうが、まして源氏は思うことが多く眠れません
僧都は初夜と言いましたが、実際には夜はもうだいぶ更けていました。
🔄 (以上『46 なんちゃって図像学 若紫の巻(4)⑤ 深夜、唐突な求婚を尼君に断られる』より再掲です)
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🔄 僧都に初夜の勤行とて去られてから、深夜に尼君に断られるまでの間の源氏絵を抜かしていました。
順番が前後します。
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雀の子を逃がされて涙で頬がぐちゃぐちゃになっているような幼い姪孫(てっそんと読むそうです)を妻にしたいと言われた僧都は答を保留します。

返事を保留して勤行に登る僧都

自分は世を捨てた身、保護者は明日をも知れぬ病身の妹だけ、子供の父親の宮様が世話してくれるかもしれないが子供の母親をいじめ殺した正妻がその子供を慈しむとも思えない、貴人が唐突に求婚してきたが、子供相手にまともな結婚を考えているとは到底思えない、変わった性癖の人なのか?

というわけで、源氏は、勤行を言い訳に去った僧都からは何の返事も得られぬまま取り残されました。
、冷たい山風瀧壺瀧の音、少し眠そうな読経 に取り巻かれて、少女を思って源氏は眠れません。

≪立派な源氏物語図 少女を思って眠れない源氏≫
≪立派な源氏物語図 少女を思って眠れない源氏2(同じ構図)≫

🌷🌷🌷『少女を思って眠れない源氏』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼

瀧壺とか瀧の音とかの描写は眠れぬ夜の場面になって初めて描かれるのだと思います。
惟光と覗きに来た時には、趣味のいい庵室という印象に終始しています。
眠れぬ夜の場面に瀧を描き込むこととの整合性を取る為なのか、夕方覗きに行った時の絵も、尼君や若紫の暮らす庵室はとてつもない深山幽谷の中に置かれています。
庭の中に瀧とか。
夕刻の徒然にこじんまりした趣味のいい草庵を覗きに来ただけの筈が、とんでもなくドラマティックな絵になっていることがほとんどのように思います。

・ 懸け造り

懸け造りというのは、巨大なジャングルジムのような足場を組んで段差のある崖に建築する技法のことだそうです。清水の舞台で見るヤツです。
この場面で源氏が悶々と眠れぬ夜を過ごす庵室は、この懸け造りで描く約束のようです。瀧を描くのと同様に。

写真は鳥取県の三徳山投げ入れ堂(Wikipediaから)ですが、これで雨がちょっと降ると瀧音の高くなる瀧まですぐそばにあるのでは、個人的には、もはや隠棲感よりも幽閉感の印象が強くなってしまいます。


源氏と惟光はこの轟々たる瀧の流れ落ちてくる断崖の向こうから覗いている絵も多く、その熱意にたまげます。

・ 若紫の住まいの瀧の描写

≪立派な源氏物語図 部分≫
≪立派な源氏物語図 部分≫
≪立派な源氏物語図 部分≫
≪立派な源氏物語図 部分≫
≪立派な源氏物語図 部分≫



・ 枕

物思いで眠れぬ源氏が褥の上で腹ばいになっている源氏絵はよくあるように思うのですが、枕元に謎の幾何学模様が描き込まれていることが多く、陰陽道的な何かのまじないなのだろうかと不思議に思っていました。
この絵などは比較的柔らかく描かれていますが、

ほとんどこんなものが枕元にある印象を持っていました。

こういう実物を見たことがないのですが、これは多分、6面ともお手玉みたいに綴じてある立方体に近い枕なんでしょうね。

正解じゃないかもしれませんが、謎のエキゾティックなシンボルと見えたものが、実は丁寧に綴じた高級枕という日用品だと気付いた時には嬉しかったです。

                        眞斗通つぐ美

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