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源氏物語 夕顔の巻 概略11(鳰鳥の貪る夜~別にそれほどでも)

・ 西の対に上がる

仄かに明るくなって来た頃に準備が整い車を降りました。
部屋はこざっぱりと整えられています。
管理人は左大臣家にも出入りしている顔見知りの下家司です。
右近を通して、自分がいることを言わせないように口留めします。

下家司は、急いで粥などは用意させたものの、給仕の手回しまでは間に合わずあたふたしています。

・ 鳰鳥の 息長川は

17歳の源氏は、朝餉のことなどどうでもよくて、誰憚らぬ初めての旅寝のこの場所で、これからこの女と、思う存分放縦に過ごすこと以外考えられなくなっています。

「尽きぬ愛を交わそう」
📖 鳰鳥の 息長川は 絶えぬとも 君に語らふこと 尽きめやも
       ※鳰鳥(におどり)、息長川(おきなががわ)

・ 荒れ果てた庭を見る

さて。
日もだいぶ高くなってから起き出して、源氏は自分で格子を上げます。
手入れされていない庭はひどく荒れて、広々と見渡す限り人影もなく、木立も草木も水草までもが薄気味悪いまでに繁茂して、秋の野らです。

だいぶ離れた質素な別棟には僅かに住む人の気配があります。

・ 源氏の傲慢

「すっかり荒れてしまっているね」
「でも、こう荒れ果てたところに棲むだって、この私のことならば、見逃すことだろうよ」と言います。

長い時間、思いのままに隈なく肌を合わせもつれ合った後ですから、源氏の方はすっかり気が緩み、いつまでも他人行儀に身分を隠していては女も嫌だろうという気になって、とうとうを覆うのをやめます。

「あなたが五条で呼び止めてこう深い仲になった私の顔を見せてあげよう」
📖 夕露に 紐とく花は 玉鉾のたよりに見えし 縁にこそありけれ

「あなたが粉をかけて来た男の顔はどう?」「光君とは私のことだよ」
📖 夕露に 紐とく花は 玉鉾のたよりに見えし 縁にこそありけれ

・ 辛辣な女

女は流し目で見て、「黄昏時の目の錯覚だったわ」と小さな声で呟きます。

・ 源氏はあくまでもポジティブ

源氏は面白がって、そんな軽口も出てくるほどに気を許してくつろいでいるのかと嬉しくなります。
幼げに見えるのに、鬼の出そうなこんな物凄い場所に気後れしていないことの意外性に、ますます魅了されていきます。

・ あなたの番だと責めるけれど…

「あなたが名乗らないから私も素性を隠していたのだ」
「私がこうして名乗ったのだからあなたも名乗ってよ」「落ち着かないもの」と源氏は言いますが、

夕顔は、「下賤な海人の子ですから…」と言って答えません。
そこまで打ち解けたわけではないという様子です。
それもまた甘え可愛い様子と思ってしまう、どこまでも盲目な、17歳の恋する源氏です。
女は天性のコケットのようでもあります。

「そちらが海人の子なら私は われから なのだろう」などと恨み言を言ったり、また飽くことなく肌を重ねたりしながら、一日が過ぎていきます。

Cf.『夕顔の巻』鳰鳥の貪る夜~別にそれほどでも

眞斗通つぐ美



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