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源氏物語 夕顔の巻 概略8(中秋の名月~五条の明け方)

・ 中秋の名月

八月十五夜のことです。
煌々たる満月の光が隙間だらけの板葺屋根から差し込んで来るのを物珍しく見る源氏です。

・ 五条の明け方

明け方近くなると近所の家々から賤しい男たちが起き出して喋り出すのが聞こえます。
「ああ、寒い寒い」「今年は商売も難しそうだし、田舎周りもできなそうで心細くてな」「お隣さん、聞いてるかい?」など言い合っているのが聞こえます。

女は、その日暮らしの場末の声が間近に聞こえる小宅を恥ずかしく思うようではあるのですが、おっとりとして、そう辛そうにも見えず、隣近所のあけすけな話の内容もわからぬらしい箱入りぶりも品がよくて、陋巷に在ることで却って可愛いさが際立って見えるようです。

唐臼を踏み鳴らす雷のような轟音が枕元で鳴っているように聞こえます。

源氏は何の音かわからないまま頭を抱えます。

他にも煩わしい騒音が多いのですが、
一方では、砧の音があちこちから微かに聞こえるのも、空を飛ぶ雁の声が混じるのも、耐え難いほどに胸に迫る秋の情趣でもあります。

遣戸を開けて二人で外を見ます。
こんな狭い庭にもしゃれた呉竹前栽の露はきらめいています。
いつもは立派な館の奥まった部屋で寝むので入り乱れる虫のすだきも珍しくて、普通なら我慢できないようなみすぼらしい暮らしぶりも、可愛い女といるとひたすら興趣深く胸に迫ります。

📌 砧と詩

砧の響きは、遠い夫を想う妻の哀切の風情として、漢詩から取られて、を縁語とすることが皆に共有されていたようです。

📖 は新の色を帯び は遠の声に和す(白氏文集)
📖 誰が家の婦ぞ に帛を擣つ 冴え 風凄じくして 杵悲し(白氏文集)
📖 小夜ふけて の音ぞたゆむなる を見つつや 衣打つらむ(千載集)


Cf.『夕顔の巻』中秋の名月~五条の朝

眞斗通つぐ美

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