フィラデルフィア、兄弟愛の街

 イギリス植民地時代から発展を続けアメリカ建国の独立宣言が署名された政治と経済の中心地であり学問や芸術文化の分野においても大学や美術館や管弦楽団が有名な大都市、それがフィラデルフィアだ。
 別の一面もある。
 繁栄の裏側に貧困があり真昼間から多くの薬物中毒者が路上を彷徨う光景には世紀末が過ぎて四半世紀近く経過している今も世紀末観が漂っている。
 同じ街なのに両極端で興味深い。サステナブルな社会やSDGsを考えると、生活に困っている方への手厚いフォローが必要と思われるが、最先端の研究には費用が掛かるし、高価な芸術作品を維持するためには手間と金と時間を惜しんではならないし、楽団員の賃金をケチったら恨みを買ってピアノ線で首を絞められるかもしれない。上下どちらとも持続可能な開発となるような出費のバランスが大切だ。
 とはいえ上も下も満足できる額を用意できるか、というと難しいだろう。
 上の方は、大学ならば入学金や出世した卒業生からの寄付を募る、そして美術館だったら入館料、管弦楽団ならコンサートのチケット代の売り上げが期待できるけれど、貧困層や薬物中毒者はそもそも自活が困難だと思われるので、当局は事情を加味した予算配分が求められる。
 しかし、それで納税者の過半数が納得するかというと、これも難しい気がする。誰一人取り残さない社会を目指すと理想を掲げても、人によっては「よその街でやってくれ」と思うだろう。
 理想を現実のものとするためには金が必要だと、つくづく感じる。
 具体的には下層階級が金を稼ぐ手段が求められる。行政の支援に全面的に依存しなければ、市名の由来である兄弟愛の精神に富んでいるはずの納税者から、それほど文句を言われないだろう。
 どうやって金を稼ぐか?
 薬物中毒者が生ける屍のような姿で歩き回る一帯を観光特別区に指定し、その悲惨で目を覆いたくなるショッキングな様子を、観光客から金を取って見物させるというのは如何に? あれを見て「俺も薬物やりてー!」と思う者はまれだと思う。薬物中毒予備軍への効果的な警告となるはずだ。
 人間を見世物にするな! という意見はあるだろうが、それを言い出すとテレビや舞台や映画で生活している人たちは廃業を余儀なくされてしまう。かつて小人プロレスで起きた悲劇を繰り返してはならないし、誇りをもって働く人に卑賎な職種に従事しているとのレッテルを張るべきではないのだ。同意を得て――場合によっては成人後見人の同意となる――納得した者だけが観光客相手のビジネスに参加すればよい。普通通りの暮らしをするだけで金になると分かれば、皆がこぞってやりたがるだろう。
 思い出の街フィラデルフィアの未来のために、上記の提案をするのだが、よくよく考えると私はフィラデルフィアへ行ったことがない気がしてきた。縁もゆかりもない土地の、名前しか知らない街について、何だか凄く偉そうな上から目線で、しかも間違った理屈を唱えているように思えてならない。しかし、ここまで書いたので投稿してみる。
 一つ書き忘れていた。
 大賞に選ばれPOLAから百万円を貰えたら、フィラデルフィア再生に尽力中の同社ペンシルベニア支店にAmazonギフト券一万円分を贈呈するつもりだ、と付け加えておく。

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