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移ろう恋慕 801文字#シロクマ文芸部

『雪化粧をした山々は、綺麗ね。』

確かに雪で覆われた山は白くて、とても綺麗。

でも、そんな山の降り積もった雪も、いつかは溶ける。溶けて、また雪が降れば白く降り積もる。
その繰り返し。
その繰り返しはまるで……

まるで………

◈◈◈
恋多き人間。
私はきっと恋多き人間で、恋をしては別れ、恋をしては別れの繰り返し。
何でそんなに繰り返すの?
そんな事を聞かれたら、私は素直に、私はただ恋をしているだけ。と答えるだろう。

私は大人になるまで、恋というものを知らなかった。人を好きになるという感情を分からなかった。

そんな私は初恋をして、その人のお陰で恋を知った。その恋はあっけなく崩れて消えてしまったけれど、それで恋に臆病になる事は全くなかった。

そんな私が感じていた、私自身の予感。

「奈美恵?(なみえ)どうしたんだ?」
「……えっ、何です?」
「何処か上の空だったからさ」
「えっ……ううん。そんな事ないわよ」

私は今お付き合いしている彼と喫茶店でお茶をしている。
けれど、私が見ていたのは考えていたのは彼のことではない。
喫茶店の通りの道を颯爽と歩く青年の姿だった。

私が感じていた、私自身の予感。

それは……

もし誰かを好きになって、両思いになっても、私はその人だけをずっと見つめ続けることは出来ない。

付き合いながら、思いながら、愛しながら、他の人を探し、その人に移ろっていってしまう。

………なんて最低な女なんだろう…。

「奈美恵………今日は……、一緒に俺の家に帰らないか?」

「……ええ、もちろん。いいですよ」

私はこうして答えながら、夜、愛し合うんだとしりながら…
私はさっき見た青年の事が気になっている。



『雪化粧をした山々は、綺麗ね。』

確かに雪で覆われた山は白くて、とても綺麗。

でも、そんな山の降り積もった雪も、いつかは溶ける。溶けて、また雪が降れば白く降り積もる。
その繰り返し。
その繰り返しは、まるで……


まるで………





まるで、私の移ろう恋慕のようだ……。


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