始まりの言葉1370文字#シロクマ文芸部
始まりは、君だった。
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「灰崎(はいざき)〜!ランニング終わったか〜?」
野球部キャプテンの大貴(だいき)が尋ねる。
「うん。終わった〜」
「俺、監督に呼ばれてるからさ、先に少し休憩して、その後バッティング練習に混ぜてもらってて〜!!」
「わかった」
俺は灰崎拓海(はいざき たくみ)
この高校の野球部で、投手をしている。
元々は野球部がなかったからこの高校を選んだものの、入学したと同時に野球部が復部。
そんな野球部でキャプテンをしている『大貴』こと、『大』と、マネージャーで大貴の幼馴染の『森園 美結(もりぞの みゆ)』に、俺が中学で野球部に入っていたことを知られ、何度も誘いをうけるようになった。
初めは断っていたけれど、野球が嫌いになった訳じゃ無かった俺は、高校の近くにある河川敷で放課後、一人投球練習をする事が日課になっていた。
…それを、大に見つかってしまったしまった事が、この時の俺の失敗。
『野球部の見学、来てみない?』
ここで、俺の負けが決まった。
別に勝負をしていた訳じゃない。
けれど、この見学の後、大に言われた一言で、俺は完全に落ちたのだ。
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「怜(れい)!バッティング練習混ぜてくれないか?」
俺はショートを守っている怜に尋ねる。
「うん!良いよ。瑠衣(るい)の次で良い?」
「うん、大丈夫ー」
俺は怜達のグループに入ると、瑠衣が打つ球を捕球する。
「瑠衣、打つ球に力が出てきたね。この調子だよ」
「本当!!嬉しい!」
怜と瑠衣の微笑ましいやり取りを聞きながら、俺は静かに、大にあの時言われた言葉を思い出す。
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野球部の見学に来ていた俺は、ひょんなことから投球を披露することになった。
キャッチャーは大で、3球だけの投球だった。周りは部員の皆に囲まれ、何だか少しフワフワしていたが、部室にあったスパイクに履き替え、復部に伴って ならされたマウンドの上に立つ。
たった25.4cmだけ高いその場所は、何だか懐かしく、中学時代の悔しかった思いも乗せてくる。
けれど、マウンドに立った瞬間、思ったのだ。
『あ……、ここに立つことが好きだったんだ』 ……と。
そんな自分の気持ちに気づいた俺は、軽く慣らしてから自分の全力の投球をした。
俺の投げた球を見た瞬間、周りが息を呑んだような音が聞こえた気がした。
3球投球し終えたあと、大が俺の元へと勢いよく走ってきて言った。
『灰崎っ!俺は、野球部は、灰崎が必要だ!!』
何て真っ直ぐで、素直な言葉だろう。
けれど俺は、そんな大に言われた一言で完全に落ちたのだ。
自分の気持ちにも、すんなり素直になれて今に至っている。
もし、大や森園が誘ってくれなければ、今も俺は一人で投球練習をして、野球部の事を羨ましく思っていたかもしれない。
今、俺はここの野球部が好きだ。
部員の皆も、いいヤツばっかりだ。
こんな縁は、もう巡り合わないんじゃないかと思っている。
「灰崎〜!バッティング練習混ぜて貰えた〜!?」
「混ぜてもらってるよっ!」
監督との話を終えた大が戻ってきた。
「あははは!バッティング練習終わったら投球練習な。俺は投球練習場に先に言ってるからさ」
「わかった」
冬が終わり、春の訪れを感じる季節になってきた。
あっという間の1年間だった。
始まりは君だった。
君が、俺の始まりのくれたんだ。
終
こちらの企画に参加させて頂きました。
ありがとうございました。
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