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知りたくなかった事(エッセイ)

たまに親戚が集まると、色々な事を話すため、知らなかった事を時に知ることになる。
驚くことならいざ知らず、ちょっとした悪口だったり、あまり褒められた内容ではない時、段々その場に居ることがいたたまれなくなってくる。

私にとってそれは久しぶりに顔を見て、この話を聞いた時には、もうこの場から帰っていった従兄弟の話。もう会えないと思っていた従兄弟の話。従兄弟のお母さんの話。叔父と別れてからの話。
驚きよりも、悲しみが心を侵食していってあまり聞きたくなかった話。
今まで私が知らなかった話。けれど、近くに住んでいたりすると、ここまで周りが事情を知っていることに、何とも言い難い怖さを感じた話。

私は、周りが話している話を聞きながら、知りたくなかった事を知ってしまったなと思った。そして、そんな話を聞きながら、私は昔の事を思い出していた。父の実家に帰省する度に、従兄弟と遊んでいた時のこと。従兄弟のお母さんの声。まだ小さくて、幼かったけど、お姉さんみたいな事をしていた私。

あの時の記憶のまま、記憶を保管し続ける事は叶わなかった。あの頃見えていなかったものが、今、親戚同士の会話で痛いほど見えてしまった。
子供の頃は知らなかった事を知ってしまった。私は、この場に居ることが段々と苦痛になっていき、母に伝え、一人で自分の家の車の所に避難した。車に避難したのはたった数分のことだっだが、何となくホッとした気がしたし、私の知らなかった本当のことが見えて、聞こえてきて、悲しくなった気持ちも少しずつ消えていった。

けれど、その話を聞いてからの私は、夜になってもずっと、ぐるぐるぐるぐる、考え事。答えなんか出ないのに、親戚同士が話していた従兄弟の話を何度も頭の中で反芻すると共に、何ともいえない余韻が、この日の私に、この日の夜に、薄く纏わりついていたのだった。


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