雨の七夕 1511文字#青ブラ文学部
私は、子どもの頃から七夕の短冊に願い事を書くのが苦手だった。
それに、神社で神様にお願いにをするのも苦手。もし、それを叶えられなかった時、叶えてもらえなかった時、私は神様を裏切ってしまった様な気持ちになるし、裏切られた様な気持ちになってしまいそうだから…。
☆☆☆
「優子先輩っ!今日は七夕なので!会社に飾ってある七夕様の笹に、一緒に願い事書きませんか?」
私の可愛い後輩、友理奈ちゃんが折り紙の短冊を2枚持って私の元へやって来た。
「……私はいいよ…」
「え〜、どうしてですか?子供の頃に戻ったみたいで楽しいじゃないですか!」
無邪気な笑顔で言われてしまえば、私はもう断る理由を持たなくなる。
「……もう、わかった。私も書くよ」
「やった!ありがとうございます!!」
何がありがとうなのだろう…と思わなくはなかったが、可愛く喜ぶ友理奈ちゃんを見ていれば、そんな気持ちは何処かへ行く。
私は友理奈ちゃんと短冊にお願い事を書き、仕事帰りに会社のロビーに飾ってある笹に、友理奈ちゃんと短冊をかけに向かった。
「優子さんっ!願い事、叶うといいですね!」
「……そうだね」
この後は予定があるという友理奈ちゃんと別れ、私は会社近くのバス停に向かう。……今日は七夕…。
けれど、雲は何処か夜空を重く覆っていて、雨が降り出してきそうだった。
私は自分の乗るバス停所に来ると、開いているベンチに腰を掛ける。
「……叶わないかもな……」
……やってしまった。と思った。
会社からでは外の様子が分からず書いてしまった短冊の願い事は、もしかしたら叶わないかもしれない。
「藍原。お疲れ。今帰り?」
私に話しかけて来たのは、同期の柳原(やなはら)だった。
「……!柳原……、柳原も今帰り?」
「うん。思ったよりも早く終わった」
「そう。お疲れ様」
「藍原はさ、短冊にお願い事書いたりした?」
柳原が、少し間を空けて隣に座ってくる。
「うん。書いた。友理奈ちゃんに誘われて。……でも、私の願い事は叶わないかもな〜」
「……?何で?」
ポツッ、ポツッ、と、雨が降ってきた。
雨の七夕になってしまった。
「……雨が降ってきたから」
「……え?」
「……催涙雨になっちゃった」
「……へ?さ、催涙雨?」
柳原は少し困っている。
……何だか面白い。
「私ね……天の川、一度でも良いから見てみたいんだよね」
「じゃあ……行く?来年、」
「……えっ?」
「ほら、来年は土曜日が七夕になるし。その時、一緒に見に行かない?」
「……一年後じゃん。覚えてないかもよ」
「ちゃんと俺が覚えてるよ。一緒に行かない?」
「……彼女と行けば?居るでしょ?」
「う〜ん。……別れた!」
「……!!!えっ!!」
「だ〜か〜ら、わ、か、れ、た。
今、フリーでーす。」
「……いまフリーでも、一年後には彼女が居るかもしれないじゃん」
「う〜ん、居ないよ」
「……何でそう言い切れるの?」
「片思い中だからね」
「……………!!」
サラッとこういう事が言える男だ。
……でも、そんな所が良いと思ってしまう私がいる。
いや。絶対だめ。
「……雨……止まないな……」
顔を上げて柳原が言う。
横顔が、とてもシャープで綺麗だ。
「……そうだね……」
私も柳原と同じ様に顔を上げる。
バスが来るまではもう少し。
けれど、柳原とお喋りする時間は、何だか心地がよくて、まだもう少しこの時間が続いてほしい。
そんな事を、雨の七夕になったこの日に、私は願ってしまったのだった…。
「でさ…藍原は、短冊に何て願い事書いたの?」
「うん?……おしえな〜い」
「えっ!?何でだよ」
「ひ〜み〜つ〜」
☆☆☆
『織姫と彦星が、会えますように』
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
山根あきらさん
短く書けませんでした💦
ありがとうございました。
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