1滴、貰います 995文字#新色できました
僕がしている仕事は、少し…嫌、だいぶ変わっている。一年中割と忙しい仕事ではあるが、1番忙しくなるのが夏だ。
毎年夏になると、社員は皆大きい鞄を持参し、鞄いっぱいに試験管と危険ではない特殊な液体を詰める。
そしてパソコンやスマホを取り出し、各々が担当する事になっている会場へと出発していく。
今回の僕の担当は、野球場。
甲子園をかけた戦いが行われている場所だ。
「毎年のことながら、何だか複雑だな〜」
同じ部署で、一緒の班の先輩が言う。
「そうですね…、けど、ソレを貰わないと、作れませんからね」
「……だなっ」
こうして先輩と僕は会社の営業車に乗り込み、担当する球場へと急ぐ。
タイミング的にこの日の初戦が終わる時間帯に到着予定だ。
球場に到着したのは予定より早く、9回の表が始まっていた時だった。大会関係者に一通り挨拶を済ませ、ボールボーイの子が待機している場所で試合終了を待つ。
そして…試合終了のサイレンが鳴る。
敗れた野球部員の子達は、頬を涙で濡らしている。
僕達は、その中に入り、失礼を承知でこれから頼みに向かうのだ。
待機していた場所から敗れた高校のベンチへ試験管を持ちながら近付き、あるお願いをする。
「私は、こういうものなんだけれど、君のその涙を…1滴貰えないだろうか?」
我ながら何ともスットンキョンとしたお願いだ。
「……へ?」
そしてこの反応になるのも充分頷ける。
「……涙……ですか…………、グスっ……どうぞ」
俺と先輩は、そうやって一人一人に了承を得ながら涙を試験管へと集めていく。
そして集め終わった後、こう言われた。
「噂通り、本当にとるんですね」
ええ、とりますとも。
それが、僕達の仕事だからね。
僕と先輩、他社員が、どうして涙を集めるのか…それは我が社が編み出した唯一無二の色『アオハル色』を作り出すためだ。
高校生の年齢の子供達だけの涙で作り出すことの出来る『アオハル色』は、大まかで言うなら水色だが、例え様のない何処か掴めない色をしている。
けれど、その涙と特殊な液体を混ぜた『アオハル色』は、とても人気色で、何年か先まで予約で埋まっている我が社の売れ筋商品でもある。
突飛なものに、素直に協力してもらえるのはとても有難く、かけがえのないものだ。
さあ、これから会社へと戻り、特殊な液体と混ぜた『アオハル色』を大切に扱い、商品へと変えなければ!
アオハル色は、誰かのかけがえのない、青春の一欠片なのだから…。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました!
三羽 烏さん
この様な話で大丈夫か心配です💦
素敵な企画をありがとうございました!
楽しかったです。
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