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貴方の言葉で…。1344文字#シロクマ文芸部
新しい靴を履いて友達に会ったら言われた一言。
『その靴、百合ちゃんに似合ってないね!』
……友達はきっと何も考えずに言ったんだと思う。思ったことが、そのまま飛び出した。そんな感じ。
けれど、私にとってのその靴は、母におねだりをして買ってもらった大切な新しい靴だった。
けれど、私はこの時以来、その靴を履くことはなくなった。母にどうして履かないの?と聞かれたから、大切すぎて履くのが勿体ないと、嘘な様な本当な様なことを言って濁した。
それが、小学生6年生の頃。
◈◈◈
『百合さん、これ、どうですか?』
私は大人になり4歳年下の彼氏、松尾 凛(まつお りん)と一緒に買い物に訪れていた。その時、たまたま前を通った靴屋さんが閉店セールをやっているとの事で、少し覗きに来たのだ。
彼が私に選んだ靴は、ハイヒールといっても踵の高さは低く、足首を紐で固定する様な可愛くて綺麗な靴で、そしてこの靴の形は、私が小学6年生の時、母におねだりをして買ってもらい、友達に似合ってないと言われた靴の形と良く似ていた。
「……ありがとう凛。でも、そういう形の靴、私には合わないの」
「えっ!そんな事ない。俺が百合さんに似合うと思って選んでみたんだ。…お願い百合さん。
一回履いてみてくれない……?」
私は渋々、凛の言葉を受け入れ、試し履きをする椅子に腰を降ろし、凛の選んでくれた靴を履いてみた。
「………っ!!百合さん!とっても良く似合ってるよ。綺麗で可愛いよ」
「本当、…可愛くて綺麗………」
私がおねだりした靴も、私自身、本当は私に良く似合っている靴だと思った。
履き心地も良く、柔らかくて可愛くて、私にとっては完璧な靴だった。
「………私ね、子供の頃にこれに似た靴をお母さんにおねだりして買ってもらったの。だけど、それを履いて友達との待ち合わせに公園に行った時ね、友達に言われちゃったの。
その靴、似合わないねって。
……それ以来、その靴は履けなくなったし、今になるまで、この靴の形は履かないでいたの……」
「………似合ってるよ」
「……うん?……」
「その友達は似合わないねって言ったかもしれないけど、俺は、この靴は、この靴の形は百合さんにとっても似合ってると思うよ。
……百合さんを何倍も素敵に見せてくれてるよ……」
「………っ、ありがとう……凛」
その後、凛は俺が選んだ靴だからと、私の為に選んでくれた靴をプレゼントしてくれた。可愛くラッピングまで頼んで。
「ありがとう、凛。
……私も何か忘れた頃にお返しするからね。」
「忘れた頃って……(笑)良いよお礼は要らない。」
「えっ?要らないの?」
「……そのかわり……」
凛は並んで歩いた足を大きく一歩踏み出し、私の前に出た。
「俺とのデートのとき、履けるときには、履いてきてね……」
私の彼氏は、男前で可愛くて格好良くて優しい彼氏。凛。
「うん。もちろん。凛が選んでくれた靴だもの…」
「うん。!」
私にかかっていた小さな呪いは、凛の力で見事に解けた。
私に似合うと言ってくれた靴。
綺麗で、可愛いと言ってくれた靴。
「凛、私、この靴、とっても大切にする。大事にする……」
「……うん。」
また並んで歩いていると、凛が手を繋いで来た。今度のデートの時は、凛がプレゼントしてくれた靴を絶対に履く。
履いて、こうして凛と並んで歩くんだから。
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