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限界腐女子の展示 音声ガイド原稿

2023年3月6日 第4稿

2023年3月に行われた、標本の湯という企画で使用した音声ガイドの原稿です。
私はその企画内で展示の枠を一ついただき、開催時間内に永遠とBL漫画を描き続ける腐女子(私)を展示しました。
iPadで漫画を描いているため、大きめのモニターを横に置いて、描画中の画面がリアルタイムで見られるようにしていたので、音声ガイドもそのような仕様になっています。

これは本番前のリハーサルの写真
(本番中の写真を撮っていただいたのですが保存し忘れてそのまま閲覧期限を超えました)

上の写真に写っている黒い背もたれの椅子に、座って漫画を描いている腐女子がいるのを想像してください。

展示の見方を誘導するために描いたポスター




※こちらのガイドは完全版です。長すぎるので、実際の展示ではかなり縮小したものを使用しました。

⒈ 簡単なBLと腐女子に関するガイド

これから 限界腐女子の展示音声ガイド 『簡単なBLと腐女子に関するガイド編』を始めます

さて 腐女子と呼ばれている人々は今や市民権を得た存在として 単語くらいは聴いたことがあるかも知れません

一般的に広まっている定義としては「ボーイズラブ(BL)と言われる男性同士の恋愛を取り扱った作品を好む女性」とされていますが この人々は普段ステルスしていることが多く 実態は様々 多種多様な個体がいる為 定義の固定は難しいのが現状です 腐女子自体が定義づけを嫌うというのもまた 真相解明の難航具合を加速させております

そんな腐女子が愛するBLは 世の中に浸透するずっと前から存在し 社会の変動と共に動いてきたカルチャーであることは確かでしょう

先ほども述べた通り BLは男性同士の恋愛を描いた作品がほとんどですが 恋愛関係とは括れないであろう関係性が描かれていることもあり これも一概に定義づけできるものではありません

基本的には 攻め 性行為の際に挿入する側と 受け 挿入される側の二人のラブストーリーが展開していき そのキャラクターの持つ属性の組み合わせを楽しみながらストーリーを辿っていきます

属性とは例えば 年下部下攻め×年上上司受け などがあります 社会的地位がプライベートで逆転する構造に所謂「萌え」を感じる腐女子もいるのではないでしょうか 今もなお様々なキャラクター属性と組み合わせが誕生し まるで将棋のようにパターンが生み出され続け 創作物の楽しみとして可能性が広がるばかり 目の前で作業をしている腐女子もそういった可能性に魅了されているようです

BLの楽しみ方は 絵描き 文字書き コスプレイヤーなどなど それぞれの方法で萌えを表現したり 味わったり 中でも一大マーケットと化しているコミックマーケット 通称コミケにおいて 同人誌というジャンプ漫画等の既成の作品から派生した二次創作は 恋愛対象が明示されていないキャラクター同士をラブストーリーに落とし込むことがあります BLが爆発的に広まった背景に二次創作の存在は大きく 腐女子たちは既存のキャラクターたちを物語に配置して表現を楽しんでいるよう

作り手と読み手の中にそのキャラクターに対する共通認識が出来上がり 逆にこの共通認識がすれ違ってキャラに対する解釈違いとして腐女子同士で激論を交わすこともしばしば コミュニティの広がりとしても興味深いと思います

対して 登場人物もストーリーも完全オリジナルのBL漫画で出版されている作品は「商業BL」と呼ばれています 商業BLは始まりから恋愛をさせるためにキャラクターが用意されるようなもので キャラクターの出どころが違うというわけです

腐女子が感じる「萌え」などの感情もそれぞれ 何に対して熱があるのかは違うため 今まで述べたガイドも一例でしかありません 大枠は大体当てはまるように思いますが 全く違う楽しみ方をしている人もいるでしょう そんな「自由な創作コンテンツ」としてBLカルチャーは広がりを見せたのかも知れません

本当に簡単なガイドですが なんとなくその存在を理解していただけましたでしょうか?

BLの歴史や 社会とのつながりをもっと詳しく知りたい方にはカウンターに置いてある「BL進化論」「BLカルチャー論」などの書籍をお勧めします わかりやすく軽快に腐女子とBLが歩んできた道が書かれていて BLが好きでない方にも発見がある本たちです

これで限界腐女子の展示音声ガイド 『簡単なBLと腐女子に関するガイド編』を終わります よろしければ他のガイドもお聞きください

⒉ 漫画に関するこだわり

これから 限界腐女子の展示音声ガイド 『漫画に対するこだわり編』を始めます

よろしければ モニターを見ながらお楽しみください

そこに映し出されているのは 一人の腐女子である中山美里という個体が今まさに製作中のBL漫画です iPadでの描画ですので モニターに写っている画面と 漫画製作中の画面はまるっきり同じ状態になっています

制作されているのは二次創作ではなく 登場人物もストーリーも完全オリジナルのBL漫画 創作に至る経緯は掲示しておりますので そちらをご覧いただくとして ここでは描画に関することと キャラとその物語についてガイドしていきます

さて この個体が作業工程で一番悪戦苦闘するのは 描画において 見る角度によって変化するモノの立体をどう処理するか

例えば上から人間を見たときに一番よく見えるのは頭ですが その頭より下の部分がどのように見えるのか 写真を見たり 実際に高い建物から人間を見下ろしてみたりして描画に挑みます さらに難しいのはそのお手本通りに描いても納得できないことがあるそうです ここで表現力が試されるのかも知れません その人だから描けるものとその見方があって面白いですね

では描けるものだけ描けば良いのでは?とも思うのですが「ここで受けが攻めを見上げている目線で書いた方がキャラの心情になれて面白いのに!」とか「ここでこの手を描画することで セリフで説明するよりも読み手に衝撃を与えられるかも知れない」などなど表現する側として最大限のモノを受け取る人に届けたいと思ってしまい 描けないものでも描こうとするのです

これらの問題をなんとか乗り越えようと 日々一人の部屋で描きたいキャラのポーズを自分で取ったり セルフタイマーで自撮りをする奇行に走ります この個体が言うには「なりふり構っていられません 最近の描画アプリは優秀で 3Dモデルにポーズを取らせて自分が描きたいモノを立体的に見せてくれるのですが なんか悔しいので自分でポーズを取るのはやめられないかも知れません」とのこと

キャラの設定は実在の人物をモデルにしているのですが この個体はどうしても年下攻めが好きで 攻めに感情移入してBL漫画を読んでしまうことが多いよう というより 己が攻めでいたい願望が大きいために受けのスペックを自分にしたのにも関わらず 攻めの方がこの個体に近い性格になってしまう結果に

言ってしまえば究極にオナニー 「だけど描かずにはいられなかった 己の欲望をどこかで発散したかった 誰かに笑ってもらいたかった」 と供述しております

物語はBLらしくと言っていいのかわかりませんが フィクションであるからこそ 現実ではそこで関係が終わるような事をさせてみたり 絵で見せて表現にする という次元が違うからこそできることを楽しんでいる模様 

二次元と現実にはまだ境界があり この先の未来にその境界がなくなる可能性もなきにしもあらずですが 現時点ではその境界を利用して 演劇作品の場合は目の前でやられたら引いてしまうようなことを 漫画においては可能なのかどうか試行錯誤している現状です 

ネームという 漫画の下書きのようなものと 現在までで完成している漫画が見れるものを展示していますので よろしければご覧ください

この個体の好きな展開 好きな関係 好きな言葉をふんだんに詰め込んで 時々キャラが勝手に動いて喋りながら 少しずつ物語を進めています 簡単には終わらせられません

一番最後にどうでもいいガイドです

なぜ この腐女子が「限界腐女子」なのかというと 締切に追われているからです 3月中に原稿を完成させることを演劇仲間に誓ってしまったらしいです

コミケ前の腐女子はこんな感じなる人もいます まさに新刊を落とすか落とさないかの瀬戸際 己の愛を証明できるのか否か 人生楽しそうで何よりですね

これで限界腐女子の展示音声ガイド 『漫画に対するこだわり編』を終わります ありがとうございました

⒊ 創作者としての中山目線のBLガイド

これから 限界腐女子の展示音声ガイド 『創作者としての中山目線のBLガイド編』を始めます よろしければ 目の前で描画中の人間を見ながらお楽しみください

このガイドはあくまで 中山目線のBLの見方をガイドするものですので 多少偏りがあるかも知れません ご了承の上でお聞きいただきたく存じます

さて 簡単な紹介から失礼します 中山美里は演劇活動を中心として 何かしらの創作活動を主な行動としている生き物です 自らを腐女子であると自認しており 受取手としてBLを楽しむ面も持ち合わせております 基本的には劇作と演出を自身のユニットで担当し 社会とそこに生きる人間のことを考え続けることに生きる時間のほとんどを費やしている現在です

今回はそんな創作者としてBLを捉えてみるということで 創作物としてBLがどのような機能を持っているのか 中山の見解を紹介したいと思います

早速ですが BL漫画にはしばしば性的描写が見られるが故に 「BLってエロ本なんでしょ?」という認識を持たれている方もいるでしょう それは完全に間違っている訳ではありません そういった快楽を求めてしまうのは否めません しかし 今回は少し違った視点を持ち出しましょう エロ本で終わるのではなく なぜ 男性同士のエロを創作物の表現方法として選んでいるのかという一歩踏み出した視点です つまりその性描写が描かれることがあるBLという表現方法の機能と有効性を考えてみようということ

男性同士のエロとなると主に男性器とお尻の穴を使用するわけですが ここではあくまでこれらをパーツとして捉えます 男性という社会的に作られた性別も一つのキャラカテゴリーとして捉え これら二つは素材にすぎないと考えてみます 妄想の際に使える素材です メタファーとも言えるかも知れません 

その素材に引っ付いたイメージを加味しつつ妄想を楽しむコンテンツとしてBLを捉えるとどうなるでしょう

ガイド1でも紹介しましたが BLには攻めと受けというキャラ属性が存在します どちらも男性とされているので男性器を有している これは同じものを有しているフラットな状態と言えるのではないか キャラクターの物質としてのフラット性 何度も言いますがあくまで妄想上の素材として捉えた場合です ここに性格や社会的地位の差がプラスされてキャラとしての概念が形成され そんな二つの概念がフラットな状態から関係を生み出す 

このフラット性に対等な関係を表現する機能と有効性があるのではないかと 中山は仮説を立てました この仮説には中山の希望的観測が含まれますので 全てのBL作品がそういった機能を持っているというわけではありません

少しガイドがずれますが 女性同士でもその表現は可能であると思います 物質としてのフラット性があるので しかし中山が百合と呼ばれる女性同士の恋愛を描いた作品には疎く 漠然としたことを言ってしまうのですが 百合作品とBL作品にはまた違った機能がありそうだと思っております 受取手の状態にもよりますが 百合作品もBL作品もそれぞれ性自認を女性 男性としているどちらからも「自分と近過ぎて読めない」という声を聞いたことがあります そういった受取手の状態を考えて 自分の表現が届いてほしい人に有効な方法を選んでいる作者もいるのではないでしょうか

中山自身は自身の性別についてどちらでも良いと捉えていて 戸籍上は女性とされているのでそのポジションにいる感じです なので 社会が持つなんとなくの性別イメージが創作物に反映された結果 百合作品はキャラ属性として女性同士 BL作品は男性同士とされていると考えています そのなんとなくの性別イメージの中に「女性同士の関係性ってこういうことあるよね〜」みたいな「男性同士の関係ってドライなことがあるよ〜」と言う今まで日本人が築いてきた謎の共通イメージがあって それが反映された創作物として百合とBLの機能と有効性が変わってくるのではないか これからその共通認識がなくなれば百合もBLもジャンルとして分けることがなくなるかも知れません

仮説に話を戻しますと そのフラット性を最大限に発揮して さらに物語上も対等な関係を表現しているのではないかと 中山が個人的にそう捉えた作品を紹介させてください

カウンターに置いてある「ハッピークソライフ」という商業BL漫画です この作品に登場する二人の性格やらスペックが正反対でありつつ どこか似ている部分もあり 持ちつ持たれつ まだ恋愛関係にはなっていないものの二人で生活している様はまさに対等 性欲の赴くままに行動する二人ですが その性的な部分があまりにもポップに描かれているため 本当に大切なことは性欲の発散では無いのかも?という考えを与えてくれます ダブルネコ どちらも受けを希望しているという BL漫画においてあまり多くない設定も興味深いです

この漫画の作者であるはらだ先生の作品を読んで 様々なことを考えられるようになりました 良い作品は見解を与えてくれるものですね 特にカウンターにおいてあるはらだ先生の作品は物語の構造が素晴らしいと思います

BL慣れしていない方には少々絵面がハードかもしれないので まずは『ワンルームエンジェル』という作品をお勧めします 同じくカウンターに置いてあるので ご自由にお読みください

長くなってしまいましたが そろそろまとめに入ります

中山はそうした対等な関係の表現方法の最適なツールとしてBLを捉え その有効性に賭けて 現在BL漫画を作成中です 

現実と創作物は地続きで 現実の欲望が創作物に反映されたりしますが 二次元だからこその良さがあり 現実にそれを期待しない場合がある為 表現方法として演劇と漫画では違った機能と有効性があると考えます漫画の実写化を嫌う人を例にすると強引でしょうか? 二次元のままでいてほしいものもあると思うのです

創作物は自分が置かれた現実の状態から離脱している瞬間を生み出すことができる

簡単に言ってしまうと感情移入 少し矮小化する気もしますが その感情移入によって自分ではないキャラクターになれる瞬間がある それが自らの欲望に影響を与えればのめり込むこともあるでしょう それらの欲望に敏感に目を凝らして反応していくことを演劇作品の創作者として心がけています

BLは女性の性欲を満たすための快楽装置でしかないと認識されがちですが 中山個人としては 関係性のコントロールに快感を覚え 恋愛でなくても とにかく人と人が対等に愛し合うということに憧れと欲望が渦巻いているためにBLにのめり込んだ次第だと 創作していく過程で気づくことができました これからもBLというジャンルの変化に目を凝らし そこから社会の変化を見ていきたいです

これで限界腐女子の展示音声ガイド 『創作者としての中山目線のBLガイド編』を終わります 疑問やご意見ご感想がありましたら なんでも話しかけてください


原稿は以上です。
よくよく考え、企画参加者にもアドバイスをいただきながら作成した原稿ですが、まだまだBLや腐女子については底が知れないと思っています。

宣伝になってしまいますが、こんなことを考えながら、自分のユニット?劇団?で演劇公演を予定しております。
記事にもUPしている漫画をベースに、腐女子とはどういう欲望を持っているのかを、一人の腐女子をサンプルに描きます。
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