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『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋著 レビュー

 今期芥川賞受賞作2作。どちらを読もうかなとまず冒頭をさらっと読んでみた。朝比奈氏は初めましての作家さん。お医者様という経歴から固い文章を予想していたのに、なんだか柔らかい。世界にはいりやすい。ということで『サンショウウオの四十九日』をチョイス。

 叔父のなかに胎児として存在したという特異な出生経緯を持つ父と、結合双生児として生まれた姉妹、舜と杏。叔父の死により、もし自分たちのどちらかが死んだらどうなるのか。結合している姉、妹のなかでそれらの問いが響く…

 医師である著者の専門性以上に、透明感ある文体、そしてどこまでも広がるその想像力に驚いた。姉妹の感情に耳を澄ませて聞き取ったような自然さで、彼女らの日常を描いていく。男性作家さんが描く女性の言葉のチョイス、雰囲気などなど、男性のイメージする女性を感じてしまい苦手だったりすることもあるが、まったく違和感がなった。むしろ、女性が書いた? とおもうほどスムーズに頭のなかにはいってきて驚いてしまった。これもまた著者のもつイメージ力なのかな…

 タイトルに使われているサンショウウオは、陰陽魚として太極図でよくみる、お互いを追いかけているようにみえるあの白と黒の図。相補相克。この物語のメタファーとしてこれ以上ぴたりとあてはまるものは思いつかないと唸ってしまった。

 一方強いて難点をあげるとしたら、後半にかけて哲学的要素が増えて難解さが増し、読む流れがやや滞ってしまったこと。私の知識の乏しさもあると思うけれど、レビューサイトでも難しいという意見は散見されたので、一定数同じ感想を抱く読者はいると思う。

 また双生児として繋がりにもっと深さが欲しかったかなとも。母親のお腹のなかから同じ時間をシェアしてきた双子。さらに結合しているとなると、もっと太い精神的に深い繋がり、インスピレーション的なものをシェアしているイメージをしたけれど、表現はリアルでありながら、若干淡白に感じてしまった。これは私が身近に双子をみてきて、普通の姉妹兄弟以上の精神的繋がりをみてきた故かもしれない。

 そうはいっても姉妹それぞれの感情が読み手に染み込んでくる濃度は、フィクションと思えないほど濃く、鮮やか。本作が芥川賞に値する作品であることはすごく、よくわかった。著者の他の作品もぜひ読みたい。

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