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村田沙耶香『御伽の部屋』読書感想

村田沙耶香さんを知るきっかけになったのは『コンビニ人間』

その世界観にどっぷりはまり、『地球星人』『マウス』と少しずつ読んでいるところです。

今回は『授乳』『コイビト』と一緒に収録されていた『御伽の部屋』の感想を書いてみようと思います。



作品紹介

群像新人文学賞デビューの著者、初の作品集。優秀作受賞の「授乳」はじめ3作品を収録。

日常生活の細部を新しい感受性・感覚で描く。「小説を書く原点」(選考委員・藤沢周氏)をもった著者のデビュー作。


こんな人におすすめ

○独特の世界観を味わいたい人
○様々な価値観に触れたい人
○つい他人に理想を押し付けてしまう人


感想(※以下ネタバレを含みます)



関口要二という人間

なんというか、インパクトのある名前ですよね。
セキグチヨウジ。
思わず音読したくなるような文字の並びです。

要二という人間を知っていく度、ぴったりの名前だなあと思いましたね。

後にゆきが、名前に二がつくのは次男だからなのかと尋ねていましたが、要二は一人っ子だと言います。
両親が結婚前に子供を一人堕しているからとのことですが、そのエピソードにすら「らしさ」を感じてしまいました。


不思議な既視感

「あたしはほとんど発言しないうちに許された」

ここ、なぜか既視感を覚えたんですよね。こんなこと考えたことすらなかったのに、「分かる分かる」という風に。

ずっと疑問に思っていたのですが、先日読んだ本の解説にその糸口のようなものを見つけました。

それは私にとって馴染みのある、いつもそばにあった、懐かしい未知だった。「不思議な物語」と形容して終わらせることができない、身近で切実な感触だった。

名前のない記憶が疼き、体の中で咲き始め、今まで「見えていた」光景が裏返しになっていき、無意識が知覚していた世界が声を上げ始める。

今村夏子『木になった亜沙』解説:村田沙耶香 


きっと、私が無意識に知覚していた世界が声をあげたんでしょうね。
子供の頃、「見えていた」大人たちに私は許されていたんだ。そう思うと、すとんと心に落ちるものがありました。

「懐かしい未知」
という表現、とても素敵ですよね。
それは今回の私のように、昔の記憶かもしれないし、もっとそれ以前の、魂レベルの記憶の中に無意識に存在しているのかもしれません。


カメレオン

ゆき好みに変貌していく要二を、「カメレオンみたいな人間」と表現している部分がありました。言葉や態度だけでなく、服装やごっこ遊びまでなんでも完璧にこなす要二にぴったりの表現です。

カメレオンとまではいかないにしても、人間誰しも接する人によって態度を変えていますよね。それは社会を生きていく上で当たり前だと分かっていながら、少し恐ろしく感じてしまう自分がいます。

特に親しい人の違った側面を見ると、なんだか不安になったりしませんか?

ケンから大学での要二の話を聞かされたときに、不愉快になったゆきの気持ちもよく分かります。せっかく作りこまれた虚構の中にいるのに、わざわざ引きずり出されるようなものですからね。


正男お姉ちゃん

この名前、とっても残酷ですよね。
正しい男で正男。皮肉としか思えません(褒めてます)

公園の地面に草花を描いていく場面には、心を打たれるものがありました。

草花には詳しくないので読み飛ばそうかとも思ったのですが、できませんでしたね。呪文のようなカタカナを、一言一句大切に読みました。

不思議なもので、そうして目で追っているうちに、正男お姉ちゃんの叫びのようなものが聞こえてくるんですよね。

辛くなって何度か休憩を挟みながら読みました。


素早い連続のまばたき

終盤で、ゆきが要二の通う大学に足を運んだ場面がありました。そこで関口要二なら絶対にしないような素早い連続のまばたきを見て、夢から覚めるんですよね。

ここ、すごいなあと思いました。まばたきまでもが「関口要二」だったんですね。

「理想の他者は、自分の中にいる」という記述にも考えさせられました。
結局、他者は他者なんですよね。どんなに親しくなっても、そのことに変わりはありません。

でも、親しくなればなるほど理想を押し付けてしまうのも事実。だから人間関係って難しいんですよね。


不要になった要ニ

完璧な要二を演じて、自分だけの世界を作ったゆきには、一体何が残っているんでしょう。

鏡の中で出会った「佐々木ゆき」が、誰だか分からなくなった気がしました。

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