朱に交われば赤くなる(6)

妹の部屋に入った僕(1)


今は土曜日の朝、母さんと妹は確か夕方まで帰って来ないと聞いている。
この家の中は、僕一人だ。
僕は自室で、来週、学校で実習のある肖像画に就いて予習している。うーん、どんな気持ちで描けばいいんだろう。

考えれば、考える程、眠くなる。

中学の時に、美術の時間で、風景画を描いた事はあるけれど、今回は初めての人物画だ。
そうだ、確か、毎月購読している、月間(ザ、美術)が今月、人物画について特集していたはずだ。そう言えば、あの本どこにいったっけ?記憶を辿る・・・

妹は言う。
「お兄ちゃん、この本って凄いね。絵を描く側だけじゃなく、モデルについても心構えが書いてある。私のバイブルにするから、お兄ちゃん、この本、私に暫く貸しといて」
「い、いいけど将来、お前は、モデルにでもなるんかい?」
「うん、私はお兄ちゃんの専属美人モデルになるの」

その会話をたどりながら、妹の部屋に目当ての雑誌を探しに向かう。
普通、異性の部屋に入るとなると、足がすくむと思う。
でも、僕が毎日通う学校の教室、それは女の子の部屋とそんなに違わないと思う。僕にはもう免疫が出来ている。

だが、扉を開けた瞬間、僕はがくがくと足がすくんだ。妹の部屋。
これが、女の子の部屋なのか。

制服のセーラー服は脱ぎっぱなし、ベッドの上の色々な洋服。
足元に散乱する下着類、ブラとショーツが散らばっている。
僕は思わず見てはいけないものをみてしまったかの様に、扉を閉め、廊下に出た。

ふー、一息付きたかった。もう、このまま諦めようか。

いや、待て、部屋がこんなに乱れているのは、何か理由がある筈。
確か、妹が玄関で外出する時の言った言葉。
「じゃ、お兄ちゃん、お留守番おねがいね」
そして、その言葉を発した唇。
間違いない。今朝の妹はあのリップを付けていた。男の子とデートなんだ!
納得がいく。朝の限られた時間の中で、風呂に入り、シャンプーをし、髪を乾かせ、下着を選び、着てく服を何回でも着替えたとしても、まだ迷う。
そして、念入りに化粧を施し、髪を整える。仕上げは、何かを期待しての、あの推しのリップだ。
無理もない。そんな妹に部屋を片付けてから出かけろとは誰が言えよう。

僕は、妹の事を思い、部屋の中を片付けようとした。でもふと、気付いた。妹はこう言うだろう。
「お兄ちゃん、私の下着や服、触ったでしょう!お母さんに言いつけるから。もう一生、口きいてあげない」
僕は震えながら、両手に持った衣服を、又、床にぶちまけた。
しかし、ある一つの布だけは、僕の右腕にからみついていた。

それは、名残惜しそうに、新しい持ち主を求めるかの様に、しがみついていた。

純白のレースのブラジャーだった。

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