【妄想お悩み相談室】第4回「芸のないに人間にウンザリ」
回答者:40代 某企業管理職
真実の口ですか。私も行ったことがあります。結婚を考えていた彼とイタリアに旅行に行った時です。あなたはもう覚えていらっしゃらないかと思います。
そこで彼が「ローマの休日」のマネをしました。彼は私の前であなたの口に手を入れ「俺は○○ちゃんのことを一途に愛しています」と宣言しました。そのあと、一瞬抜けないフリをしておどける彼に、私も便乗して驚いた演技などをしてみせました。とても幸せな戯れでした。
でも、帰国してその彼が私も含めて3股をかけていたことが分かりました。私は、あなたが彼の手を噛みちぎらなかったから、彼の言葉を信じたんです。それなのに、私は彼に騙されていたのです。彼とはそのあとすぐに別れました。
今回のお便りを読んで、私は怒りにわななきました。あなたは正直者の手には噛みつかず、嘘つきの手を噛みちぎるんですよね?だったら、どうしてあの時彼の手を噛みちぎってくれなかったんですか?よくよく考えたら、私は彼だけでなく、あなたにも騙されていたわけですね。
ろくに仕事もしないくせに、人間に「芸がない」などとケチをつけるなんて、図々しいにもほどがあります。大体、正直者と嘘つきもろくに見破れないくせに、よくそんなコンセプトを掲げていられますね。本当に呆れます。
とは言っても、ここはお悩み相談ですから、小言はこのくらいにしておきましょう。大体、嘘をついたことのない人間なんているわけがありません。大なり小なり、一度は嘘をつくのが人間です。どんな小さな嘘も許さないとなれば、あなたの前には手が抜けなくなった人達でごった返すことになるでしょうから。
さて、お悩みには寄り添うことが第一。ですが、私も含め私の周りに、あなたのように毎日毎日、口に手を突っ込まれる人間はいません。あなたに特有のお悩みを理解するには、シミュレーションが一番。そう考え、会社の男性の部下に手伝ってもらいました。私は毎日彼の口に自分の手を突っ込んでみました。時には、むせるまで深く手を入れてみました。
最初の方は彼も嫌がっていました。しかし、3週間を迎えたあたりから徐々に反応が変わってきました。うっかり私が彼の口に手を入れるのを忘れていると、彼は飼い主を見つめる子犬のような目をしながら「今日はやってくれないんですか」と言うようになってきました。最近では、少し手の突っ込みが浅いと、「もっと、もっと来てください」とせがむようになってきました。
彼は、何か変なものに目覚めました。ちょっと気持ち悪くなってきて止めましたが、最近の彼はどこか元気がなく、私以外の女性社員に「手袋ありでいいから、お願い」と言ってせがむようになりました。どうしてくれるんですか?少なくとも、彼がそんな風になってしまった以上、あなたのお悩みには寄り添えそうにありません。ごめんなさい。
ですが、芸のある人間の姿を見たいなら方法が一つあります。ルールを変えることです。あなたは嘘をついた者の手を噛みちぎり、正直者は無事に手が抜けるというルールがあると思います。そのルールを変えるのです。もしくは追加してください。それも無断で。
例えば、嘘つきか正直者かではなく、「今朝、朝食にミネストローネを食べた人は手を噛み、そうでなければ噛まない」などです。噛みつくか否かの基準はあなたが決めてください。もしくは、そんなこと気にせず、ランダムで気まぐれに噛んだり噛まなかったりすればいいのです。
すると、人間たちは、正直者が手を噛まれ、嘘つきが噛まれないという、従来の言い伝えとは違う結果に戸惑うことになるかと思います。すると人々は、これまでのルールを疑い始め、論争を巻き起こすでしょう。おそらく、これには2つの立場が必然的に生まれます。一つは「正直者だと思われていた人が本当は嘘つきだった」という立場で、もう一つが「手が抜けるか抜けないかは、嘘をついたかそうでないかとあまり関係がない」と主張する立場です。
この対立した議論を傍観すれば、少しは退屈しのぎになるかと思います。ぜひ、お試しください。
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