謝罪の鉄則

 何かおかしい。いつも通りの部屋なのだが、いつも通りではない。窓は鍵がかけられ密閉されているし部屋の鍵も外からロックされている。叩いて叫んでも返事がない。どうやら閉じ込められてしまったようだ。今日は仕事だというのに。さて、どうするか。この感じだと簡単に出られそうにない。いや、私次第でおそらく出ることができる。しかし、それはあまり取りたくない方法だった。なぜなら、、、とそのときドアが細く開きそこから水の入ったペットボトルが放り込まれた。私はその瞬間素早くドアの方へ向かいドアが閉じる前に足を挟みこむことに成功した。そのまま力づくで開けてやろうとしたそのとき、隙間から何かが顔を覗かせた。よくみるとそれは包丁であった。私は驚いた拍子にドアから手を離し、尻もちをついてしまった。するとドアはバタンと強く閉まり、奴が去っていく足音だけが聞こえた。水を一口飲み、ベッドに腰掛けた。こりゃ出れそうにないな、と大きく息を吐いた。そのとき携帯の通知音が鳴った。犯人からのLINEである。例の件について弁解しろ、要求はそれだけだ。私は一言、わかったと送信した。そう、結局はそうなるんだ。何をしようがこれを引き延ばすだけ。覚悟はとうにできている!…よ多分、それなりに、ちょっとは。大きく息を吐き、扉の前にゆっくりと向かった。そしてゆっくりと片足ずつ丁寧に折りたたみ正座の体制になった。おでこを床につけその前にピタリと手を合わせる。そう、土下座である。そしてとびきりの大声でこう叫ぶ。
「他の女と2人で食事してすみませんでした。でも好きとかそういうのでなくてただ可愛いなと、いえ、はい、浮気でした。でも、その後会社で僕の悪口言ってました。口臭かったらしいです。多分嫌われました。なのでもう会うことはないです。それから会社の女性社員たちから距離を置かれました。多分嫌われました。後輩の青木君からはドンマイと励まされました。多分舐められました。ホントにすみませんでした。ティファニー買うので許してください。」
 するとキィーという音と共に扉が開いた。そしてそこに立っていた犯人いや、妻はこう言った。
3万以上。と一言。
安いもんだ諭吉の3人くらい。そうだよなシャンクス、大切なものを守るためなら諭吉の2人や3人どうってことないよな。こうして妻の許しを得た私は真っ先にある場所へ向かった。あのチョッパーの可愛さですら癒せない私の心の傷の元凶を退治せねば。そしてあの日から日課になった口内ケアを行い、私の1日が始まった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?