【連載】しぶとく生きていますか?⑲
ある日、松江は祈祷師を呼んだ。庶野の山田旅館の主人から紹介されたらしい。
茂三は、「そんなもの呼んでも」と批判的だった。
松江は茂三の言葉に耳を貸さないほど精神的に弱っていたのである。
祈禱師は何やらもぐもぐ口の中で言っていた。そして、
「松江さん、多分これで大丈夫だと思うけど」と確信の無い言い方で、お金だけ貰い帰っていった。
「松っちゃん、よくお前に金があったな」と茂三が松江に聞いた。
「実は、庶野の旅館の主人から、いくらか借りた」と言った。
「あのケチな山田の主人が良く貸してくれたな。お前、働いて必ず返すんだぞ」と茂三は松江に念を押すことを忘れなかった。
その後、幽霊? が出なくなったと見えて、松江は元気になった。現金なものである。
松江純一は、香川県の高松出身で、年は二十二歳。身長は百五十センチと小さく細身の何処にでもいるような男である。
気が小さく優しい性格であった。
毎朝、茂三とともに、流れ着いた昆布を拾い生計を立てていた。生活必需品を買うだけの生活で、三度の飯は、淑子に頼み、茂三の家で食べていた。