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【短編小説】情報通(第三話)

                           
 どこにでも情報通はいるものだ。
 その会社の近辺の話題に詳しいのである。
 どこで仕入れてくるのか。
 その界隈の昔の話しやら、最近の話題などをよく知っている。
 そのビジネス街に引越ししてきてから、既に十年近くになる会社の社員の中の一人が、いわゆる情報通なのだ。
 本人曰く、
 「情報収集は、近所の人と仲良くなることだ。気さくに話し合える心掛けを持って接することだ」と自慢げに話す。

 これから書く事は、彼から聞いた話である。

第三話

 その会社から北に向かって、二つ目の手前右角に、立ち食い蕎麦屋が出来た。
 そのビルの向かいに、以前から全国チェーンの立ち食い蕎麦屋があるが、もう一軒出来たのである。

 後から出来た蕎麦屋の場所は、もともと米屋である。
 米屋の半分を蕎麦屋として貸し出し、米屋は残りの半分の広さで営業していた。

 その新しく出来た蕎麦屋のことだが、麺の量が多い。汁は濃い醤油味、天麩羅はトッピングで選べる。
 大食漢の情報通は満足した。

 開店した当初は、その新しい店に人が流れたが、一ヶ月も過ぎると徐々に落ち着いてきた。
 つまり、以前からある全国チェーンの蕎麦屋に、人が戻ってしまったのだ。
 どうしてか?
 情報通は、調査を始めた。そして遂に、その原因を突き止めた。
 ...…新しく出来た蕎麦屋は、朝の通勤時間帯でもまだ開店していないのである。当初二人で切り盛りしていたが、その後、たった一人で、マイペースでやっていた。
 情報通は、内心怒った。
(客のことは後回しなのかよ)

 商売は、客のニーズを掴むことが大事だが、配慮がなかった。
(事情は、様々あるだろうが、お客第一でしょう)

 三か月後、その蕎麦屋は潰れてしまった。

 いまはネイルサロンが出来ている。

 商売というのは難しい。
  

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