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タッチの南ちゃん

障害者グループホームで暮らしている。
マンションの2DKに、相部屋さんとふたりで同居する、そんな部屋がいくつもある。
去年1月末から一緒に暮らしている、今の相部屋さんは、天使のような人だ。
真面目でもの静か、勤勉で礼儀正しい。
耳が悪いそうだけど、そこはコミュニケーションに少し気を使えば大丈夫だ。
相部屋さんは言う。
「とりこさんがいつも親切にしてくれるって、訪問看護でも診察でも話してます。
ほんとですよ。
前のホームはひどかった。
大変だったんですよ。」
わたしは言う。
「とんでもないです。
こちらこそいつもありがとうございます。」
グループホームでの生活は、相部屋さん次第だ。
わたしが今まで過去の相部屋さんに苦労してきたように、彼女も過去の相部屋さんに苦労してきたのだろう。
そんなふたりの共同生活は、今のところとてもうまくいっている。

相部屋さんは、よくわたしを褒めてくれる。
「若いからいいですね」
若くないのに。
「可愛いですね」
可愛くないのに。
「歯がきれいですね」
タバコのヤニがついてるのに。
昨日の褒め言葉に、わたしは耳を疑った。
「タッチの南ちゃん知ってますか?
浅倉南。
とりこさんを見るたび、南ちゃんって思うんです。」
えっなんで?
なにひとつ似てないよ?
髪型ひとつとっても、わたしブリーチしたベリーショートだよ?
けれどわたしはこう答えた。
「そんなことないですよ。
でも、ありがとうございます。」
タッチの南ちゃん。
昭和世代の女性にとっては、最大級の褒め言葉だ。
相部屋さんは、やはりわたしに好意を示してくれている。
そのことが嬉しかった。

グループホームでの生活は、相部屋さん次第だ。
相部屋さん次第で、全く同じ部屋での生活でも、天国にも地獄にも思える。
今の相部屋さんはいい人だ。
うまくやっていこうと思う。

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