そして残された箸が一膳

お盆期間中、高校時代からの腐れ縁の友人が福岡の我が家にきていた。
12日の夜から16日の朝まで、4泊5日。事前に聞いていた話より一泊多い。

初日の夜は、スーパーで買ったもので夕飯を飲み食い。
2日目は、大宰府を軽く観光した後、宝満山に登った。
3日目は、登山でボロボロのからだで在来線を乗り継ぎ熊本へ。
熊本城に行ったり、馬刺しを食べたりした。往復6時間ほどの行程…。
4日目は、車(軽トラ)を借りて友人の目当ての長崎を目指した。
途中、吉野ケ里遺跡や武雄神社にも寄って、グラバー園に着いた。
行きは下道で友人がずっと運転をし、帰りはぼくが高速でビュン。

疲れた。友人の相手をするのに一日のほぼ全エネルギーを費やした。
こちらがなにかもてなそうと考えても、向こうの気まぐれ次第。

結局、「歴史を感じたい」と言う友人の目当てのところをほぼなぞった。

博多周辺の地下街の様子をみては、「福岡らしくない。東京や名古屋みたいにならんでもええんやで」とうそぶく友人を前に、「お前のそれは、それぞれの土地に勝手に自分自身が見たいと思うものを観ようとするオリエンタリズムなんじゃねえの?」と悪態をつきつつ、彼の旅に付き合った。

友人の滞在中は、他の私生活でトラブルも生じた。関東から来た腐れ縁という嵐とトラブルによって、ぼくの日常はすっかり様変わりしてしまった。

福岡に来てからの日常をとり戻すためにも、ぼくは書いている。
仕事関係の連絡が諸々、溜まっている。
多くが、先方の「後日連絡します」からの音信不通という。
自分の主体性が試されているような気分。

嵐がやっと去った。
いまは自分の時間が欲しい。

嵐が帰宅する前、我が家でこんな会話になった。

彼はぼくが神奈川に居た頃、彼用の箸を我が家に置いていた。
福岡移住に際して、捨てるわけにもいかず、ぼくはそれを持ってきていた。
初日の夜、彼は彼の箸が我が家で健在であることに気づいた。

「そういやわいの箸、やそらの家に置き忘れてたわ」

「神奈川からわざわざ持ってきてしまったよ。持って帰れば?」

「また、この箸の存在を忘れた頃に遊びに来るわ」

とある大学の研究員のようなことをしている友人は二年後の学会は福岡で開催予定なんだと話していた。その頃にまた、来るということらしい。

ぼくもその時に、今と同じ家に住んでいるかもわからないけれども。

そして、友人の箸は結局、我が家に残されることになった。

その後、青春18切符を使って鈍行で二日間かけて東京から福岡にきた友人は、台風の影響で大幅にダイヤが乱れている新幹線へと乗り込んでいった。

結局、今夜は関東に帰れなさそう。
彼のお盆の旅はまだ続いていくようだ。

嵐が去ってからも、結局、我が家には友人の箸が一膳残された。

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