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介護の奥深さ

 35年医療の仕事をしてきて、自分の得意分野と不得意分野が明白でした。それはやりたくない仕事とやりたい仕事?というか、自分が携わっていてワクワク楽しい仕事を求めて行って、それが結局自分の好きな旅から派生して今のツアーナースの仕事に行き着いたのですが・・・・

ずっと謎だった

就職したての時はオペ室に配属され、そこから外科系の救急外来、外科病棟とどちらかというと急性期の医療に携わってきて時間が勝負のところが結構あり、子育てで健診業務に移った時も、採血をどのくらいの時間で終わらせるか、スキルの向上も必須だったので、単純作業とは言え面白くて結構続きました。今でもツアーナースの合間にスポットで仕事を引き受けることがありますが、いよいよフリーランスから開業届を出して自分でやって行くとなった途端、保守的な気持ちが出てしまい知り合いのツテで看護多機能住宅のスポット勤務に入らせていただいたのですが・・・これがもう 自分の中で何が楽しくてこの仕事を皆が選ぶんだろう?とまず思ってしまったのです。

デイサービスのアルバイトをさせていただいたこともありましたが、これも同じく自分の中で見出す楽しさは、医療とは大分違い趣味の折り紙を披露したり、一緒にクラフトをしたり、レクを楽しむ利用者様を観ているのが楽しいと思ったけれど、ケア的なことは全くと言って良いほど携わらず処置としてはありましたが、どれひとつとっても楽しい業務とはかけ離れていました。
血液内科病棟に配属された時も、なんだか気持ちが沈むばかりで長続きしませんでした。

なのにそんな私が医療度が高いというだけでこの多機能住宅に携わってみたものの、気持ちが上がらないどころか初回からこりゃダメだ・・・と自分が出来なさすぎる介護系看護のレベルの低さに落ち込み、胃痛や下痢まで起きるほど強烈なショックを受けました。
当然、中のスタッフも人間関係が良くないという最悪な職場で、ここで私は何を見出して頑張れば良いのか・・・お金を稼ぐ方法は他にもたくさんあるじゃないかと思って、たった数回の勤務で続けられないと思いました。
辞めるという言葉がなかなか出なかったのは、親友の友人がそこで頑張っており、立て直しに協力してほしいという言葉からのアルバイトだったので、申し訳ない気持ちが強くてなんとか行く目的を見出したくて必死でした。

ところが今日、早く時間よ経って・・・と無機質に働いていたときに、認知症の女性に無意識に話しかけながらお世話をしていました。 
「今朝は富士山が真っ白になって急に雪が厚く積もり出したのに、北側の斜面だけなぜか雪が積もっていないんですよ。まさか火山だから地熱があったりして?」なんて話しかけたら、じーっと私をみていたその方が小さな声で「北側は風が強いから雪が積もりにくいんだよ。」と答えてくださったのです。

なんだかその返事が物凄くスッキリする答えで、私は思わず「◯◯さん、すごい!さすが年の功!」なんて軽口を叩いてしまいましたが、とても嬉しそうに「そうぉ?」とニコニコされてその姿に、自分の中では会話なんかできない人と思い込んでいたので、すごい新鮮でした。

それから午後になって理事にやっぱり自分は介護系の看護の経験がなさすぎて、簡単におむつ交換や拘縮のある方のバイタルとか、褥瘡の処置も1人でなんてできそうにないので続けられないとお伝えして、今日で辞めることに決めていました。

人間同士ということをもう一度考えてみた

辞めることを告げたら、物凄く気持ちが楽になってあと数時間経てばおさらばだ!って思いながらリーダーに頼まれた事をするために、ある男性のお部屋に入りました。 
痰が物凄く絡んでいて吸引が必要な方です。 ご自身も辛かったのでしょう。まさかの口を開いてください、というと大きく開いてくださり、苦しいはずなのに頑張って痰を引いてもらうのに協力してくれています。 鼻からやらないと深いところが届かずに「ごめんなさい。」と言って鼻にチューブを入れると、ベッド柵にしっかり手を握り締め、されるがままの状態に目から涙がポロポロこぼれ・・・ごめんなさいね。。。といいながら吸引をしましたが、その後胃に穴をあけて栄養を入れる食事の時間になった時、いつもなら柵にしがみついて全然上を向いて下さらず、私はそれすら手こずって無理だーーーーーーーーって思っていたのですが、今日は静かにされるがままでいてくださるのです。

口腔清拭(口の中をキレイにする)の時も協力的でスッキリした口の中を満足そうにこちらを見ている姿に「ありがとうございます。」とお礼を言って部屋を出ました。

腕が肘からしっかり曲がったまま固まってしまっている患者様・・・。どうやって血圧を測れば良いのかさっぱりわからず・・・だけど先輩Nsが「ゆるゆるしてね、ゆるゆるだよ・・・」と声をかけるとあんなにカチカチだった腕に緩みができ、血圧計が巻けるのです。
今日はそれを真似てみました。 ジーーっと私を見つめるその方。ゆるゆるはなかなかしてくださらなかったけれど、私の作業をじっと眺め、穴が開きそうでしたが体温計も血圧計も酸素飽和度も全部できたし、おむつ交換もワーカーさんに手伝ってもらいながらきっちり漏れなく仕上げることができ、私の作業を眺めている目は優しい目でした。

もうひと方、その方は動物のお医者さんだった方。 全身が痒くて湿疹ができて皮がボロボロになって痒がっていつも不機嫌で大変でした。
メントールの入った軟膏を処方されていたそうですが、これが偉く寒いらしくしかも痒みが全然取れないということを私に教えてくださり、今の薬の方が効果があるそうで、だいぶ皮膚の状況が先週より良くなっていました。
片麻痺があり、声を発することがありませんが、頷いたり、排泄もベルで教えてくださいます。声も出ないのに、だけど会話ができている事に自分自身驚きました。
今日はお家に一時帰宅する日でしたが、家は嫌だと嬉しくないと首を振って教えてくださり、ここが良いんですか?にコクンと首を縦に。

家族がいる家より、施設がいいなんて・・・切なくなるような気持ちとまたこの方と話がしたいと思ったら、急に辞めることが惜しくなりました。

親友はずっと入浴サービスの看護師をしていますが、彼女が終末期の利用者さんがお風呂に入って目を細めて気持ち良さそうにしている姿を見るとやり甲斐がある。と前に言っていて、私はえー?他人なのに?と理解できませんでした。

だけど今日あった諸々のことや、往診医に自慢げにスタッフが絶対に良くならないんじゃないかという褥瘡をここまでに回復していることを話しているのを聞いて、やり甲斐って一言で言えてしまうけれど、とても深いものだなと思いました。

親の介護を温かく受け入れられるか

そんな自分の心の変化を素直に受け止め、理事にもう一度挑戦してみたいとお伝えしました。
すると「ありがとうございます。まだまだ大丈夫と思って頂いて、来ていただければありがたいです。何かの縁です。」と言っていただけました。

そんな職場に出会ったのは、私にとっては心の財産になるだろうと介護というものをもう一度真摯に受け止め、仕事で介護系看護なんて・・・親の介護で充分!と言っていた自分に、新しい何かの感覚を与えてもらえた事で、ずっと心配だった親の介護をくる時が来たら楽しく受け入れようと、なんだかとても自信が持てる気がして、今日の出来事は自分の看護師としての意識改革につながり、介護という奥深いものを自分が知り得たことはものすごい感謝です。

みんな通る道

私も後何年か、もしかしたら明日、急に寝たきりになることもあるかもしれません。そんな時、自分がどういうふうに接してもらえるか考えたら、自分が元気なうちは自分が希望する看護、介護をして行こう・・・とそう決めました。

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