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友だちの妊娠

高校まで1番仲良しだった友だちが妊娠した。

彼女とは疎遠ではないけれど、お互いのライフスタイルが変わり、会うのは1年に1、2度程度。

私たちは30歳目前の29歳。
出産ラッシュな年代で、私自身も数ヶ月前に第2子を出産していた。

安定期に入ったという彼女にどうしても会いたかったので、子どもを夫に預け、彼女の家にお邪魔した。
「久しぶり〜!」と彼女がいつもの様に笑う。
前回会ったのは、確か昨年の秋頃。半年以上前になる。

あぁ、お腹に本当に赤ちゃんがいるんだ。

そう実感するのに十分なほど、彼女のお腹は立派に大きくなっていた。

「妊娠おめでとう!結婚式も無事に出来て良かったね!!」

彼女は少しだけ照れくさそうに笑って、ありがとうと言った。
本当は結婚式で盛大にお祝いしたかったのだが、妊娠が発覚したので身内だけの式に切り替えたとのことで、残念ながら参列はできなかったのだ。
今日はその写真も見せてもらう予定だ。

家にお邪魔すると我が家と違ってとても整っている。写真や思い出の品が綺麗に飾られているのを見て、彼女らしい部屋だと思った。

体調や妊娠経過を聞いたり、旦那さんのことを聞いたり。ひと通りの近況報告の後、お待ちかねの結婚式の写真も見せてもらった。

綺麗だった。

美しいドレス、幸せそうな彼女。少し膨らんだお腹。優しそうな旦那さん。素敵な式場。
「本当にステキ」
何度も思わず口にした。

改めて彼女のお腹を見る。
式から1ヶ月程度しか経っていないのに、彼女のお腹はとても大きくなったように見える。
「お腹、触ってもいい?」
赤ちゃんは眠っているのか、動きはしなかったけれど、数ヶ月前の自分とそっくりな硬さと重さのお腹は、そこに確かに生命が宿っていると物語る。

「感慨深いなあ」と呟くと
「あなたの妊娠の時、私もそう思っていたよ」と彼女は笑った。

私たちは同じ年齢で、同じ学校で同じ部活で、同じように悩んで、たくさんお喋りして、たくさんの思いを共有してきた。
それぞれの目標に向かって、別々の大学に通い、それぞれの職業に着いた今、会うことは減り、もう昔のような親友とは違うポジションかもしれない。

でもね、私にとってあなたはとても大切な存在で。あなたの美しい結婚式も、あなたの妊娠も私はとても嬉しい。
嫉妬なんて感情が1mmもなく、ただ、あなたの幸せをともに喜べる。
それはなんて嬉しいことなんだろう。

一緒に笑って泣いて悩んだあなたが母になる。
昔からは想像できないくらい大人になっちゃったね。不思議な気持ちだ。

「自分の妊娠は、自分のことだからよく分からないけど、友だちの妊娠は衝撃というか、お腹が大きいの、やっぱり感慨深いとしか言えないなあ」
「分かる、あの子が母に…って思うよね」

きっと私たちは互いの妊娠してるお腹を見て、同じように感じていたに違いない。

「おーい、無事に生まれてくるんだよ」
願いを込めて、お腹の子に話しかける。

どうか、どうか無事に、母子ともに無事に出産を終えられますように。
また、2人でだらだらと愚痴を言い、笑いあえますように。

授乳中の私は3、4時間もすれば胸が張ってきてしまうし上の子のお迎えもある。
残念ながら、昔とは違い、今の我々の会合は時間制限が厳しいのだ。

「次に会えるのは、産後数ヶ月後だね」
「無事生まれたら連絡するね」
「安産、祈ってます」
「祈ってて(笑)」

マンションのエントランスホールで別れの言葉を言いながら笑いあって、じゃあねと手を振り私は背を向ける。

次に会える時はいつだろう。
2人とも子どもが生まれたら、二人きりで会うのはますます難しいだろう。

私たちはどんどん変わる、同じでいられない。
それでも、会えば楽しいしどんどん話したくなる。お互い幸せだととても嬉しい。

メイクやヘアカラー、彼氏や受験や就職。
そんな色々を知る前からの友だち。

口に出したことはないけれど、おそらく彼女は私の親友だ。親友もだけど、思春期を共にすごした戦友の表現の方が感覚としては近い。

戦友よ。
次は子育てという戦場を、ともに戦おうぞ。

そう心の中で呟いて、私は自分の戦場に帰るべく歩き出した。

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