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法人税シリーズ〜役員報酬の適性額③〜


 今回は前回同様常勤役員に対する役員報酬の適性額が争われた事例をご紹介したいと思います


東京地裁令和2年1月30日 判決


1.事案の概要
  マレーシアに対する自動車の輸出販売を主たる業とする株式会社Xが、代表者
 Aに対して以下のとおり支給した役員報酬に不相当に高額な部分の金額が含まれ
 るとして税務署が更正したことに対して争われた事案。
     会社売上  会社営業利益  A役員報酬額  共同代表者への報酬額
 H21  62億    0.82億     1.3億         0.2億
 H22  103億    5.5億     1.2億       0.24億
 H23  89億    0.59億     2.7億        0.24億
 H24  75億     1.0億     4.0億                     0.24億
 H25  82億     1.67億     4.7億      0.24億
 H26  77億    0.55億     4.8億      0.24億
 H27  69億    0.07億     5.2億      0.34億
2.裁判所の判断
①代表者Aは,(株)Xのオーナー経営者として,主たる業務(マレーシアへの輸
 出業務)全般を差配するとともに,クライアントに対する営業を行って受注の大
 半を自ら獲得するなどして(株)Xの収益に多大な貢献をしたと評価することが
 できる一方、日本における業務(中古自動車のオークションにおける落札業務の
 ほか,クライアントとの書類のやり取り,自動車部品の調達,中古自動車の輸出
 に係る各種の手続,経理処理)は共同代表者が差配しているものと認められ、
 古自動車販売業を目的とする法人において代表者Aの職務は一般的に想定される
 職務の範囲内にあると言え、他社と質的に異なるとはいえない

他の役員に支給された役員給与と比べて著しく高額であり,(株)Xの収益及び
 使用人給与支給額が減少傾向にある中で,これに逆行する形でAの役員報酬が急
 増
しており,その結果営業利益を大きく圧迫していることに鑑みると,Aが果た
 した職責等に照らしても,本件役員給与の額の高さ及び増加率は著しく不自然で
 あると評価せざるを得ない。
③(株)Xの売上げを得るためにAが果たした職責及び達成した業績が相当高い水
 準にあったことに鑑み、同種同規模法人の役員給与の最高額を超える部分が不相
 当に高額な部分に当たると認めるのが相当



 裁判所の判断についてはかなり要約しているのですが、更にものすごく要約すると、「代表者Aが(株)Xの収益の大半を稼ぎ出しているが、同業他社でもそれはよくある話だから、同業他社の役員報酬支給額と比較して適性額を考えるべきだが、Aが果たした職責はもの凄く高水準なため、同種同規模法人の役員報酬支給額の最高額(平均額ではなく)が適性額と言える」ということ言っています。

 前回、前々回に取り上げた事案とも同様に、審判所や裁判所で役員報酬の適性額を争うとほぼ決まって同業他社比較によってその適性額が判断されており、今回の(株)Xは、まずこの点もおかしいと争っていますが、裁判所の判断①で記載の通り「社長一人が収益の源泉を生み出していることは中小企業ではよくある話」として、あくまで同業他社比較を用いることが正しいと判断されています。
 確かにそういった会社は規模が小さくなればなるほど多いように思えますので、納得できますし、役員報酬を決める際にはこの要素は常々頭に入れておく必要があるように思えます。
 すなわち、「俺の顔一つでこの会社が成り立ってんだから俺の稼いだ会社からいくら役員報酬を貰おうと勝手だろ」という考えは税務的には通用しないので、役員報酬を決める際には同業他社の支給状況とのバランスも考える必要があるということです。
 ちなみに、「俺の稼いだ金」を全て俺のものにしたいのであれば、法人ではなく個人事業で行えば実現できます。
 もちろん、その場合は毎年ダイレクトに高い所得税が課されはしますが、今回の事例のように毎年稼いだ分を丸々会社から吐き出すようなやり方をするのであれば、個人事業の方が良さそうですね笑

 また、役員報酬の上げ方については、裁判所の判断②のとおり、前回の事例と同様会社の業績(売上や営業利益等)との連動や他の従業員や役員に対する給与の増減とのバランスが重要であることは読み取れるので、ここも大切な要素です。

 これまで役員報酬を決める際に以上のような要素を考慮して決めていらっしゃる方ももちろんいるかと思いますが、多くの会社ではあまりその辺りを考えずに増減されているのではないでしょうか?
 そう思う理由としては、税理士法人の担当者の多くがその点を把握していないからです笑

 正直、金額が数百万程度であれば、非常勤役員でない限り税務署はあまり気にしないので実務上なんでもかんでもきっちり考える必要はないのですが、1千万円を超えるような役員報酬を取ることになる際には気をつけ始める必要はあるのでご参考にしていただければと思います。

 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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