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Podcast#6農業従事者減少の背景

先日、Podcast「東大生の米談義」#6を配信しました。
#6のテーマは「農業従事者減少の背景」でした。


一言名言

文句は暇な奴に言わせておけ。賢い奴はその文句にチャンスが潜んでいることを知っている。
俺は他人の不満を聞くと興奮する。そこにチャンスが隠れているからさ。

これは、2016年には中国を飛び越えアジア時価総額のトップ企業となったアリババの創業者ジャック・マーの言葉である。現状への文句を垂れるよりその文句の解決こそが大きな商機であり、文句の解決に時間を使えということだろう。

「如何なる技術革新も誰かの文句から始まっている」は決して過言ではない。手近な例で言えば、もし川で洗濯することが面倒だと誰かが文句を言わなければ、その解決としての洗濯機は生まれていない。有り体に言えば文句は課題ないしはペインであり、その課題が深ければ深いほど、抱える人間が多ければ多いほど、その解決策としての技術革新は大きな価値を持つのである。

文句の価値に自他の差はなく、その文句の本質を掴むこと、そして解決策を考え出すことに楽しさを感じられるようになりたい。


農業従事者減少の背景

日本の農業人口は総人口の大体何割かという質問に始まった今回、Podcast「 #5お米業界の全体像」で農業経営体の数を説明していたこともあり予想は概ね的中していた。

日本の基幹的農業従事者(15歳以上の世帯員のうち普段仕事として主に自営農業に従事している者)は2000年に240万人であった中、2020年に136万人となっている。20年で半減である。(農業の成長産業化に向けた提言 経団連2023)

Podcastでは「なぜ減ったのか」という問いに対して「国内消費量や需要の減少と省力化の発展により農業に必要な人手自体が減少したのではないか」といった社会構造や技術革新などのマクロな視点から「体力仕事である上に稼げない、オフィスで働けない」といったミクロな視点まで様々な意見が出た。

Instagramでは3K「キツい・汚い・危険」と回答してくださった方もいてなるほどと感心したが、「数の減少」という観点において林が用意した回答は「引退される農家さんの数に対して新規就農者の数が小さいから」であった。2020年時点で基幹的農業従事者全体における65歳以上の割合は70%を占め、農業における高齢化と近く来る引退は疑いようのない課題である中で、2022年(令和4年)の新規就農者数が4万5840人と統計のある2006年以来の最少となっている。

経団連:農業の成長産業化に向けた提言

49歳以下の新規就農者に絞って見ると2008-2017にかけて僅かに増加傾向であるといったデータもあるが、減少していく農業人口をカバーするほどの数には届かず、それ以上に高齢農家さん引退の波が大きいのだろう。

ここでまた林から「なぜ農業という職種に就く人が少ないのか」という問いがあった。逆説的には「何があれば新規就農者が増えるのか」という問いに変換できるだろうが、林の言う通り選択には常に「ある選択肢を選んだ場合の他の選択肢の損失」を考える機会損失的な思考が念頭にあることを踏まえると、一日中エアコンの効いたオフィスで働くことを捨ててまで農業を選ぶ理由、動機づけがなくてはならない。農業は稼げない、遊ぶ選択肢がない、休日の概念がない、生活が不安定などネガティブなイメージが先行し、常人の思考であればオフィスを捨てて農業は選ばない。

農業従事者減少への取り組み

Podcastとは順序が前後するが、この”文句”に潜むチャンスを活かしている経営主体が「農業生産法人 株式会社かまくらや」である。

サラリーマンに似た農家システムの導入で8時間勤務と週休二日を実現し、直近では9年連続で新卒を採用している。耕作放棄地の再生活動に専心され耕作放棄地を高齢の農家さんから借り入れて面積を拡大している。

社長の田中さんは、農業学校や農業高校を卒業した若者が農業に就業しないという現実を知って動き出し、農地を借りることもできなかった創業時から、現在は毎年10~20ヘクタール単位で農地が増え9年間新卒を採用するにまで至っている。
農業は普通に会社に勤めるのとは違い自然や環境に左右されやすい面があるが、それを出来るだけ一般的な業務形態に近づけることが出来れば新規就農希望者が増える可能性は十分にあるのではないか。

DX/省力化の推進

林は東大農学部として農作業実習にも取り組んでおり、より現場に近い声として手作業のキツさと機械化やDXを進める必要性を挙げていた。

6月頭にテレ東系列のWBSという番組でテムザックという会社が特集されていた。

サービスロボットを主要事業とし農業自動化にも取り組んでいて、遠隔操作できる無人の種まき機械や水量管理システムの導入により、収穫量の3割減少を引き換えに労働時間の9割以上の削減を実現した。月に1回田んぼを見に行くだけで良いという、実質リモートで農業ができるイノベーションも起こりつつある。

政府は「農林水産業・地域の活力創造プラン」において「2025年までにほぼ全ての農業の担い手がデータを活用した農業を実践する」という目標を掲げているが、2020年時点で実践率は17%に留まっている。ただ、何度も言うように2024年は農政の変化の年であり、農業が抱える様々な問題を解決する上でDXや省力化は今後も農業の大きなテーマとなることは間違いない。

一方で、無論いたずらな省力化は望むべきではない。愛知県では官民連携でスマート農業×有機農業の実証実験も始まっており、地球環境にも優しい形での進歩が期待されている。

こうした文句に潜むチャンスを掴もうとする多くの農業従事者の小さな取り組みはやがて大きな潮流を生み出し、農業の、日本の希望となろう。

農家さん紹介

今回紹介したのは、新潟県上越市の「花の米」黒川義治さん

代表の黒川さんを中心に三姉妹と家族一丸となって米作りをされている農家さんで、今年の年始にお邪魔させていただいた。

稲本来の生態系を崩さずに栽培することを目指して、への字農法、海洋深層水によるミネラル補給、墨によるアルカリ性土壌、マイナスイオン、微生物の住みかなど、多くのことを意識されている。

ここで、最も聞きなれない単語として「への字農法」に関して補足を加えたい。

花の米

まず、お米を作る上で必要な3大養分は窒素/リン酸/カリウムであり、中でも稲の生育やお米の美味しさと最も関係が深い養分は窒素だと言われ、窒素肥料の量や散布するタイミング一つでお米の味が決まるという声もある。

横軸を時間として栽培期間にかけての窒素量推移を折れ線グラフとして可視化した際に、全体の中で真ん中だけグッと栄養を与えるようにして、チッソの効き方が後半にかけて右下がりに落ちて行くようにしているのが「への字農法」であり、栽培期間の前半と後半に効かせる「V字農法」と比較される。

この窒素分が綺麗に消化されなければ稲は病気がちに、お米は不味くなるとされ、以前書いた通り川や海に流れ出して赤潮の間接的な原因にもなるため環境全体への影響としてもへの字農法は効果的な農法だと言える。

また特徴的なキーワードとして「かに米」がある。
その名の通り「カニ」の殻を使用した天然素材100%のオリジナル肥料を使用していて、海の栄養素が田んぼの微生物を活性化させることで良質な土となり、丈夫で健康な稲を作ることができるという仕組みだ。生態系を上手に使って美味しいお米を作られている。

今、有機無農薬栽培は安全・安心米が標語とされることが多いが、黒川さんは「安全・安心」の前に「美味しい」があるべきだと考え「美味しい・安全・安心米」を心がけているそうだ。実際、東京コメスターセレクションKIWAMI米2022年最高金賞を受賞されるなど、その品質の高さは折り紙付きである。

また、今回のテーマに絡めて言うと「次の世代を見据えた米作りが地域を守る」という考えも大切にされている。

農業の担い手不足が進む中で、次の世代に引き継ぐための「土台」を作ること、チャレンジすることが自分の使命だと黒川さんは語る。
黒川さんの三姉妹は若くして農業女子としてお米作りに励まれていて、お家にお邪魔した際にはお孫さんがとにかく可愛くて雰囲気は明るく、こんな職場が良いなと思ったのを覚えている。

農業の良さを余すことなく伝え、継ぎたいと思わせてくれる農家さんだと思い、今回の農業事業者減少に絡めてご紹介させていただいた。

黒川さんが生産される大粒で食味も最高レベルな「新之助」という品種は、米どころ新潟として推しに推すブランド米で、新潟に行くと食べ比べセットが置いてあったりするわけだが、実際に自分も食べたこの黒川さんの「花の米」のお米は特に美味しいこと請け合いなので試してみては如何だろうか。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
#7はスマートオコメチェーンについて配信しています!
次回もお楽しみに!

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