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Podcast「東大生の米談義」#3振り返り

先日、Podcast「東大生の米談義」#3を配信しました。
#3のテーマは米余りと米価高騰、平成の米騒動とブランド米開発傾向でした。
最初は手探り、手が届かないところもあるかと思います。
回を重ねる中で修正していくために「振り返り」まで含めてPodcast「東大生の米談義」とします。


一言名言

#3は「成功とは、失敗を重ねても情熱を失わないことだ。」でスタート。

1874-1965年に生きたイギリスの保守党政治家、ウィンストン・チャーチルの言葉である。(Success is the ability to go from failure to failure without losing your enthusiasm.)

Podcastを始め、3週目にして早くも小さな失敗を経験した僕たちへの激励として選んだ。失敗は2つ。

1つは準備不足に起因する撮り直し。
準備の不足はひとえに過信から来る。自分ならできる、という自信は翼を折らず何事にもチャレンジできる自分たちを育ててくれた教育の賜物である一方、努力に裏打ちされない信心は過信に成り果てる。
今度は原稿の共有と撮り始める前に場を温める準備を怠らないように心掛け、自信を持って話そう。
人事を尽くした上で、天命に左右されない情熱を持ち続けたい。

そして「米余り」の誤解。
初回のPodcastでは米は余っていると説明し、その余ったお米を軸としたビジネスモデルを構想していた。
余っているという言葉尻のみを捉えていたが、令和5年度産米の需給逼迫は米余りの実情を知るきっかけを与えてくれた。ただ、実際にシステムを構築してからではなくアイデアの検証段階で知れたのは運が良かったと言えるだろう。

今は10人のチームメンバーと3人のアドバイザーの方のもとで、DAOの新しい形とDapps開発、イベント設計を仕掛けている。
エジソンは言った。「成功の反対は失敗ではなく、挑戦しないことである」。不滅の情熱を持ってお米社会を変える挑戦を続けよう。
※参考として失敗に関する世界の偉人の名言10選を貼ります。チャーチルの別の名言も。


米余りの現実

①令和5年産米のいま

結論から言うと、今、日本のお米は足りていない。
そしてこれからも足りなくなると予想されている。

民間在庫量という意味では依然として200万トン近くが存在し言い方によっては「余っている」と捉えることもできるが、#1で話した通り需給調整という文脈が強いことと、在庫として存在するお米の質において想像していた状況ではないことから、「民間在庫」の意味を考え直す必要があることがわかった。
収量という意味での作況指数は例年を100として令和5年産は101とほとんど変わらないが、異常気象による質の悪化と需要の伸びがお米不足を引き起こしている。
当然民間在庫においてもいいお米から売れていくもので、残るのは二等米や三等米となってくる。

この事実をちょうど1週間前、新しく当社のアドバイザーになっていただいた方に教えていただき話そうとしていたところ、日経新聞のニュースが収録当日投稿された。

今年2月6日の時点でも「需給に逼迫感」を見出しに「お米の取引価格1割高」がニュースになっていたが、この記事によると現在コメの卸会社が取引する価格は5月以降、代表的な新潟産コシヒカリが前年同期比で6割高と約13年ぶりの高値をつけた。中には8割高の銘柄もあるという。

昨夏の猛暑の影響で米の流通量が下振れした中で、販売は前年を上回るペースで進んだことで価格に大きなインパクトを与えた。

これは家計負担の増加という形でも表面化し、各方面で対策が進んでいる。
大阪では子ども食費支援事業として「お米payおおさか」というお米と交換可能なクーポンを発行したり(現在第3弾で6月から申請受付開始)、京都では八代目儀兵衛(京都市下京区)主催のコンテスト「お米番付」で優秀賞を受賞した方が無農薬で育てた白米430キロを給食にどうぞと京都府向日(むこう)市に寄付している。

また実際Instagramを運用している中でも、地方のお米屋さんから「良いお米を探していて譲っていただけたりしませんか」という声をいただくこともあり、実感としても良質なお米が不足しているのを感じる。


②米価高騰のわけ

こうしてここ数週間で一般に顕在化した米価高騰の理由を5つに整理した。

Ⅰ.続いていた生産抑制(供給サイド)

1971年から続いた減反政策は2018年にTPPの議論をきっかけに終了したのは#1で話した通りだが、やめた後も主食用のコメの全国の生産量の目安を示した上で、麦や飼料用トウモロコシに転作した農家さんへの補助金を継続していた。

お米以外を生産する方への誘導は存続していたため、作付け面積は減反政策の後も減少傾向にあった。

Ⅱ.高齢農家のリタイアと担い手不足による生産力の急速な低下(供給サイド)

またお米生産に用いる輸入資材の高騰、肥料高・燃料高含め生産環境は悪化していた。中には持ち出しで、赤字で生産する農家さんもいるそうだ(わざとそうしている方もいるそうだが、そちらはいずれ話したい)。
お米農家の平均年齢は70近くになっており、このように大変であるのに儲からない事業を後継しようと思う方は少なく、今使っている農機が壊れたらやめると言っている人も増えていると聞く。

担い手が不足していく中で国内のお米の生産力は低下しつつあった。

Ⅲ.高温障害の影響(供給サイド)

こうして生産抑制と生産力低下が進み、需要とほぼ同量の生産になりつつあったお米生産現場に、23年は猛暑が直撃したわけだ。コメが白濁したり、精米加工の際に歩留まりが悪かったりして流通量が少なくなった。

また品質低下による商品化率の低下(1等比率の低下が原因)で製品の品質維持によりコストがかかるようになった。

Ⅳ.米の家庭用需要の回復/急伸(需要サイド)

こうして供給サイドが例年に比べ厳しい状況になる中で、需要は増加傾向を強めた。

異常気象や円安でオレンジや牛肉の外国産価格が高騰を続け経営環境が悪化したため、ここ最近食品の国産回帰が進んでいるというのは番外編でも話した通りだ。

ウクライナ情勢や円安を背景に例に漏れず高騰したのが輸入小麦価格で、昨年度は「パン屋」の倒産件数過去最多になった。そのため家庭ではお米を食べようという流れが強まり、お米消費への回帰と需要の急伸が進んだ。コンビニもおにぎりや弁当コーナーに重点を置く方針へシフトすると聞く。

他にも、パックご飯が国内外含め急成長している。

去年から、業界ではパックご飯工場の建設が増え、円安も後押しして輸出は急増し、農林水産省によるとパックご飯の輸出額は17年の3億4000万円から23年には約3倍の10億円に成長。米国や香港、台湾、韓国、ベトナム、シンガポールが主な輸出先となっているそうだ。

どんな環境でもレンジでチンするだけで変わらない品質を楽しめるのは確かに魅力的であり、パンの高騰で相対的に価格が低下したことでも求心力を高めている。

Ⅴ.インバウンドによる需要増加(需要サイド)

そして最後はインバウンド。コロナがあけて旅行需要が解放されたタイミングで円安が背中を押し訪日観光客は急増、外食店の客数の伸びはそのままお米の需要増加に繋がった。

このようにして米の流通量が下振れした中で、販売は前年を上回るペースで進み高騰に繋がった。インバウンドに対応する外食産業では輸入米をブレンドしてコストを下げているところもあると聞く。


③食料・農業・農村基本法の25年ぶり改正

お米産業がざわつく中で2024年の通常国会では、1999年制定の現行基本法から「食料・農業・農村基本法」の改正が目指されている。

詳しくは弁護士の卵の堀に9月頃に説明してもらおうと思うが、noteでも近々まとめてみたい。

「農業の生産性向上」は以前重要なテーマであり続ける一方で、最大の争点とされるのは農業の「環境対応」。MRIの推計では、2050年に向けて世界のタンパク源需要は約1.4倍、人類活動の温室効果ガス(GHG)排出の3分の1を占める食料システムの環境負荷も約1.4倍まで拡大することが予想されている。ふわっと環境に良いと語られてきた農業を、改めてメタン排出などの負の側面を見据えて数値計画を策定する必要がありそうだ。

いずれにせよ、本年がお米社会にとって大きな転機になることは間違いない。「東大生の米談義」としてもこの中で大きな役割を果たせるチームへ成長したい。


平成の米騒動に学ぶ未来

①平成の米騒動

鉄血宰相と言われたビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残したが、未来を語る上で歴史の回顧が果たす役割は大きい。

あれから1週間で米価が2倍になったとのニュースも見るようになり、2024年度はいわば令和の米騒動とも言うべき状況である。

「米騒動」自体はシベリア出兵を間接の契機とする1917年の米の安売りを求める暴動だが、注目したいのは「平成の米騒動」。

平成5年、1993年の記録的冷夏と日照不足による生育不良は、米騒動以来の米価高騰をもたらした。

米の作況指数が74と「著しい不良」だったことに加え、1991年も作況指数が95と不足しており、在庫量も23万トンと現在の10分の1ほどと少なかったことから供給システムが完全にダウンしたのだ。

ただ、1994年(平成6年)6月に入り沖縄県産の早場米が出回るようになると事態は徐々に沈静化した。1994は一転して全国的に豊作が伝えられ、米騒動は完全に収束したと伝え聞く。

今年度も石垣島では5月17日から精米作業をスタートさせ、5月末には店頭に並ぶそうなので、沈静化はいずれ訪れると考えられ、輸出に向けての米の生産量を増やす話もそこかしこで見かけるためすぐ治まるとは思う。

平成5年の米騒動をきっかけに民間在庫量が拡大されたように、現在のお米の供給システムや現行基本法改正に対し、令和5年の米騒動がどういった影響を与えるのかは座して見守りたい。


②ブランド米開発の今後

平成の米騒動は、お米の供給システムだけでなく品種開発にも大きな影響を与えた。

人気お笑い芸人のサンドウィッチマンも好んで食べたと言う宮城を代表するお米ササニシキ。育種が始まったのは昭和28年(1953年)で一般田での栽培は昭和38年(1963年)と現在最も耳馴染みのあるコシヒカリ(1979年から作付面積トップを守り続ける)に比べるとやや若い。
倒れにくく安定して収量も多かったことから、急激に宮城県を中心に作付け面積を広げていき、平成2年(1990年)にはコシヒカリに次ぐ全国の作付け第2位にまで拡大していく中で。「東のササニシキ、西のコシヒカリ」と評価されることもあったという。

しかし一転、平成の米騒動をきっかけにササニシキは衰退の一途を辿った。

それまで作付面積の多かったササニシキが冷害に弱いという欠点が露呈し、障害型冷害に対する耐冷性が「極強」であるひとめぼれやコシヒカリをはじめとする冷害に強い品種への作付転換が進んだ。今のブランド米もほとんどコシヒカリ系列となっている。

では、令和の米騒動ではどうだろう。
今回は猛暑。近年のブランド米の開発傾向で「暑さに強い」を見かけるようことは多くなってきており、また勢力図が変わる可能性もあるだろう。
外国への輸出を考えると、統計として硬いお米を好むアメリカや中国、世界の嗜好に合わせるのであれば今後の開発傾向もガラッと変わってくる可能性もあり得よう。


今、”農業就業人口の減少や食料自給率の低下といった問題が目立っていることもあり、基本法の評判のみならず農政そのものの評価が芳しくない”(MRI 2023)。
今は需要と供給の量のすり合わせが進んでいるが、令和5年のような不作の年に備えて余裕を持って輸出できるだけの生産力を保有しておくのは食料安全保障という意味でも肝要だろう。

繰り返しにはなるが、お米業界の刷新に情熱を持って活動していく所存である。


農家さん紹介

毎週お世話になってる、気になってる農家さんを紹介していくコーナー。

今週は木村正明さん。前述の「ササニシキ」の突然変異種「かぐや姫」の唯一の生産者である。

かぐや姫は通常のササニシキよりも積算温度が高く刈り取り時期が遅れる分、熟成して1粒1粒がしっかりとした食感を持ち、品のある香り、優しい甘みが特徴だそう。

1993年の大冷害「平成の米騒動」の年に、ほぼ全滅していた田んぼから、たった3本だけ生き残った稲穂を大切に育てあげたが、東日本大震災の津波により作付面積の多くが被災。
営農を続けるかどうかの判断が迫られる状況の中で、直接販売にかじを切り、同市(旧矢本町)発祥のかぐや姫を地域を代表するブランド米にしようと奮闘されている。
11月初旬に収穫時期を迎える極晩生の特徴を生かして「日本で最後に収穫する新米」としてポジショニングを行う。Podcastの中では日本で最初に収穫される’スピードスター’の沖縄米と比較して、後半にかけて調子を上げる’尻上がり’'クローザー'と説明した。

ただ、かぐや姫の生産者が現在一人となっている理由はこの極晩成という特徴にある。
他品種に比べて種まきや田植えの時期は変わらない一方、積算温度が高い分稲刈りの時期が約1ヶ月遅れ、多品種の稲刈りを終えたひと月後にまた同じ作業を行うという事で、作業効率が悪くなるのだ。

そんな中でも、大冷害と大震災という二つの天災を乗り越え、かぐや姫の可能性を信じて「東松島をかぐや姫の町にする」という思いで営農に取り組まれる木村正明さんの「かぐや姫」はまさに「幻のお米」と呼べるだろう。

お米社会に思いを持って活動を始めてから最初に出会った農家さんで、家にもお呼ばれしてとても暖かい家庭で応援したくなったこと。
そして温暖化と世界の食味嗜好を考えると、「平成の米騒動」からコシヒカリが栄えたように「かぐや姫」の時代が来てもおかしくないのではないかという理由で紹介させていただいた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
東大農経の林と交互にメインスピーカーを担う予定で、来週は農業経営者の機能と能力を中心に配信予定です!
次回もお楽しみに!

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