見出し画像

10/11 『魍魎の匣』を読んだ

面白かった。

『姑獲鳥の夏』に続いての再読。初めて読んだ時の印象で言えばやはりこちらの方が強く記憶にこびりついている。何せかつて一回目に読み終えた後、例の「匣」とその中身を夢に見たことさえあった。夢に見て、その見たということをいまだに覚えている。描写されていたような上半身全体というよりは、なんかちっちゃい正方形に顔だけが、スパロボのアイコンみたいな感じで覗いていた……気がする。
しかし覚えていたのはそうした印象的な場面くらいで、事件のあらましなどはほとんど記憶から消えていたので、改めて新鮮な気持ちで楽しめた。木場が物語の主役だったこととか忘れてたし……いやそもそも『姑獲鳥の夏』読み返すまで存在自体忘れてたしな。『姑獲鳥』で出てきたときも、ちょっとした脇役に過ぎないと思ってたし、まさか見た目とは裏腹に内面にあんな空虚を抱いた難解な人物だったとは。

序盤は木場の視点で物語が進み、誘拐消失事件が発生したところでようやく京極堂が出てくるわけだが、今作での京極堂の登場の仕方は、なんというか、シリーズもの2作目の真打登場の仕方としてこれ以上ないくらい完璧だったのではないか。初対面の相手にしょっぱなからホームズしぐさをぶちかまし、関口君も関口君でさんざんに煽り立てて決め台詞を誘い出す。ノリノリかよ。2ヶ月会ってなかったとは思えない息の合いよう。いや、2ヶ月会ってなかったからこそはっちゃけてたのか?
その後のオカルトと霊能者と占いと超能力の話もなんとなく記憶の片隅には残っていたが、かつては読んでる時点でも理解できてなかったので、此度ようやくどういう話をしているか理解できてよかった。それにしても新参者の鳥口君、よく話についていけている。低俗雑誌の記者で振る舞いも実に軽薄そうであるのに、飲み込みは早くて要領はよく、そしてきちんとしたモラルも兼ね備えている。いいキャラだなあ。チラッと見たらどうも以後も登場してくれるようなので楽しみだ。

改めて読み直してみて、今回のモチーフである魍魎というのが実はかなりの強敵であったことは今更ながらに驚いた。京極堂でさえ手を焼くのだ。「シリーズ2作目の敵が最強」は名作の法則……というのをどこかで聞いたかもしくは自分で見出したかした記憶があるが、これもそのパターンに当てはまっている。もっとも3作目以降はまだ読んだことないのではっきりとは言えないが。果たしてこれ以上の難敵が京極堂の前に立ちはだかることはあるのか。
そしてまた、ちゃんと読み直して話の筋を理解して、改めて……加菜子が哀れにも程があるとの思いを固めた。こんな犠牲もそうそうない。頼子にも、雨宮にも、結局のところ加菜子自身の心は顧みられてなかったんだな。
きちんと確認できる加菜子の最後のしぐさは、友人を見てにっこりと笑い、その名を呼ぼうとするところで……もしかしたら発しようとした言葉は「よりこ」じゃなくて「よくも」だったのかもしれないが……果たしてどういう思いを持っていたのか、それは明かされることなく、隠秘の匣に封じられたままとなった。死んでしまった以上、それをどう解釈するかは生者の手に委ねられるしかないのだが、そうした結果が頼子や雨宮のアレだからな……せめて読者として、彼女の最期の意識が苦しみではなかったと信じたいところだが。だがそんな「向こう側」へ行ってしまった者の心を覗こうとする行為こそ、その境界に潜む魍魎を呼び寄せてしまうのかもしれないとも思える。まったく、後味が悪いとはこういうことか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?