4/16 『ヒト夜の永い夢』を読んだ

面白かった。
昭和初期。天才、超人と名高き南方熊楠。粘菌で思考する自動人形。天皇機関。などといった単語に惹かれて買った本だけど、惹かれたはいいものの、実のところそれらのことを全然知らない。昭和初期のことも、南方熊楠も、登場する様々な人物も、最大でも名前聞いたことがあるくらいのレベルで、勢いでやっちゃったなと最初は思ったのだが、だのに面白く読めた。なかなかすごいことだと思う。南方熊楠という稀代の偉人の造形が見事だったのだろう。名前とイケメンであることくらいしか知らなかったけど、もっと詳しく知りたくなっちゃったな。
また、各編が10~20ページくらいで細かく刻まれていたのも読みやすさを助長してくれてよかった。毎日一編読んでだいたい1ヶ月でいける計算。実際およそ1ヶ月ちょいで読み終えた。
しかしクライマックスの、夢と現実がない交ぜになる中で互いの意思を交感するシーンはやや読みにくかったというか、これは俺の好みもあるが、マジックリアリズムがあんまり好きじゃないので少し大変だった。作中にもあるように夢や他人の想像を垣間見るということでいえば小説を読むことだって同様である筈なのだが、でもどうしてもあんまり馴染めないんだよなあ。忸怩たる思いはあるが、まだこの古臭い方法でやっていきたい。
印象に残ったシーンは、終盤、南方の仲間の一人が、初期の理想とはかけ離れた状況にある中で、それでもこの事件が終わったらこうしたいという夢想を南方に語るシーン。本作においては夢を見ることはこことは異なる世界を覗き見ることであり、であれば翻って、夢さえ見れば、その世界はここではなくともどこかに存在することになる。夢を語ることがその世界をあらしめることになるのだ。

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