9/18 『憎悪人間は怒らない』を読んだ

面白かった。
いろいろと懐かしい人たちが次々と出てきて、過去作品のあれこれへと繋がっていくことが伺われ、そういう縁起を描いてくシリーズなんだっけこれーーとか思っていたところ、カチューシャがささいな小間使いみたいなチョイ役で出てきたり、名前だけだけどミセス・ロビンソンなんていう懐かしさもひとしおな名前が出てきたあたりでふと気づいたが、ひょっとして今作に出てくる人たちはみな、裏切り者ばかりなんじゃないだろうか。そう見てみると、統和機構に従いつつもより忠誠を誓うべき相手を見出だしていたり、この時点ではまだ従っているけど後に裏切ることになったり、あるいは統和機構やそのシステムの目的よりも優先すべき対象を持つ者だったりと、結構当てはまる(例外としてフォルテッシモがいるが、まあコイツは別にそれどころでなく例外なので……最強という確固たる地位をその身に宿している限り、どこに属していようがたった一人だし、世界に唯一でありながら世界のすべてを支配しているに等しい……と、当人は思っていそうだ)。まあ統和機構、絶対的でこそあれそこに完璧な忠誠を誓っている人がそもそも少ないというのもあるんだけど。そんな中で事件の発端となった合成人間カーボンは裏切るつもりもなかったのに策謀により裏切り者とされ、そう仕立て上げた当人である合成人間ピッチフォークは、己を含め何も信じられなくなったから事を起こした、と言えるか。
結局、一連の騒動はいまいちスッキリしないまま曖昧に次なる策謀や因果の渦へともつれ込んでいき、このシリーズもまだ続くんだかどうなんだかわからないんだが、その辺はいつものことと言えばいつものことではある。ヒノオくんも少し能力の芽のようなものが出てきたし、ムビョウもやや人間らしき面が垣間見えてきたので、続きそうではあるが。今作のテーマであるところの「憎悪」、実のところ、わかるようであんまわかってない。〝今、ここにあること〟から脱け出し、生命が生命たらんとするための欠かせない1ピースであるということのようだけども。上遠野作品の別シリーズでいうところの、生命エネルギーを〝呪詛〟と呼ぶようなものか。それって怒りとはまた別なのでしょうね、タイトルからすると。

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