4/18 『アメリカン・ブッダ』を読んだ
柴田勝家作品は『ヒト夜の永い夢』だけ読んだことがあるが、主人公の南方熊楠についてほとんど知らずあらすじや出てくる単語の面白そうさだけで買ったにも関わらず、面白く読めた。なので今作もタイトルの面白そうさだけで買ったけど、大丈夫だろうと思ったのだった。
「鏡石異譚」は、最近タイムスリップタイムリープものを見ると全部『タイム・リープ あしたはきのう』と見比べちゃうんだけど、これはそれと似ていながら、仕組みとしては真逆になっているようでもあり、面白かった。記憶と量子物理学が密接に関わってくるところは『ディメンションW』をも彷彿とさせる。あれ、夢の超エネルギーが記憶からもたらされるってところはちょっとファンタジー強めだなあ、とか当時は読んでて思ってたけど、あながちそうとも言えんかったのか……不勉強を許してほしい。起こっているSF的現象に対応するような怪談や伝承の名前をチャプタータイトルにしてるあたりも小ワザがきいている。
「一八九七年:龍動幕の内」はまさに以前読んだ『ヒト夜の永い夢』の前日譚でこれまた面白く読んだが、『ヒト夜』から一周して、やっぱり南方熊楠やその周囲の人々のことをよく知ってた方がもっと面白いんだろうなあ、とも思った。まあいずれ、少しずつ勉強していきたい。
表題作「アメリカン・ブッダ」だが、関係ないけど、本作を読んでるとき……でいてまだ「アメリカン・ブッダ」に入っていないときに、ふと「emptyと閻浮提って似てるな……意味的にも通ずるとこあるし」と思ってググってみたら、まさしく作中でその類似について言及されてて、それが検索にヒットしたからびっくりした。不思議な偶然もある……いや、『アメリカン・ブッダ』というタイトルは読んでる間ずっと目にしていたのだから、連想でその駄洒落を思いついたのかな。の割には「ミラクルマン」の真の意味には最後のページまで気づかなかったけど。
アメリカ大陸が発見当初インドと間違われたことから、そこにいた人々がインディアンと呼ばれたというようなことは昔から聞き及んでた話なのに、そこから「仏教を信仰するインディアン」という存在を導き出すのは、驚きよりも「その手があったか」という思いがまず先に来る。なんか、突飛なのにすごいありそう感が、どうして思いつかなかったんだと思わせるのかな。マジで実在してないよな?仏教インディアン……。
お話もブッダの悟りへの道に思いを馳せつつ実にきれいな文様の宇宙構造を描いていて面白かった。連想するのは『百億の昼と千億の夜』だけど、これも「鏡石異譚」同様ある意味逆方向へと突き詰めていった話のようでもある。内にも外にも世界は無限に広がっているのだな。
他の3篇も面白かったし、今作もイラストの見た目とあらすじの字面だけで買ったにもかかわらずジャケ買い大成功、しっかり楽しめた。柴田勝家は俺にとって見た目と字面で面白そうなら買う作家になりそうだ。柴田勝家がもう見た目と字面で面白いもんな。