9/29 冲方丁『破蕾』を読んだ

面白かった。
冲方丁が官能小説に挑む、ということで、作者の顔を直に見たこともある者がそれを楽しめるのかという懸念は、まあわりと簡単に取り払われた。エロかった。第1話などはエロコメディなのかなと思えるくらいの滑稽さを含みつつ、しかし最後には、これから死に行く女と共にくんずほぐれつになって睦み合い、絶頂の後の陶酔のなかで女の首が落ちる音を聞くという、性と死が渾然一体となった情景に、なんだかすごいものを見たという気分にさせられた。つづく2話、3話とも、また性と死をめぐるおはなしで、確かにそういうのって密接に関わりあったりそのように描かれたりすることが多いというイメージだけど、ここまでガッツリと絡め合っていくことってある? 3話目なんかはもはや性を通り越した死のおはなしであるように思えた。秘め事を、倫理を、禁忌を、果てには命を遮る壁までをも踏み越え侵犯することの恍惚。そういったものが描かれていたのだろう。
また、これが時代小説として書かれたのは、天下泰平の時代にあってさえ死を身近なものとして、軽率でこそないが容易くその身に降り注ぐことのできる武士の世というのが、性と死を表裏として描くに適した舞台だったのだろうと思う。まったくイカれてますね。

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