EPSを犠牲にしてでもESG目標を達成すべきか
こんにちは。今日はESGについて書きます。
アンケートの概要
2023/7/9にツイッターのアンケート機能を用いて、ESGに関するアンケートを実施しました。概要は以下の通りです。
本記事内では、アンケートの結果が正しいという前提で考察します。母集団などを変えて調査をしたという方がいらっしゃれば、結果をご共有いただけますと大変助かります。
Q1
Q2
Q3
利益を犠牲にしてでもESG対応をすべきか?
まずは、Q1とQ2から見ていきましょう。
Q1の「EPSを犠牲にしてでもESG対応をすべき」が16%で、Q2の「その他の理由 / ESG対応をすべき」が15.5%ですから、15.5%のほとんどは「ESG対応をすべき」だと考えている方だと思われます。
グレーの16%は、ESG対応を望む株主が少数派であっても、また、ある程度の利益影響があるとしても、ESGに対応すべきだと考えている人たちです。やや強硬的な意見に見えますが、個人的な予想よりは大きな割合でした。せいぜい数%だろうと考えていました。
青色の部分は、あくまで議決権に従うべきだという考え方の人たちです。正しいといえば正しいですが、投資家数ベースでは25%、議決権ベースでも10%前後は存在してもおかしくない状況です。個人的には、少数派であることを理由に切り捨てられるほどには、少数派ではないように感じています。
オレンジの部分は、「売上の1%はさすがに大きすぎるが、利益の1%くらいならよいのではないか」といった意見だと解釈しています。私はこの考え方であり、この選択肢が50%を超えると予想していました。予想よりは少ない比率でした。
やや深読みかもしれませんが、「何が何でもESGには対応すべきではない」という意見はありませんでした。オレンジ+グレーの37%は、ESGのためにEPSが多少犠牲になるのは仕方がないと考えているようです(うち16%は、EPSが大きく犠牲になっても構わないと考えています)。
実務的な視点
実務的には、どのような選択をとる場合であっても、投資家に対して回答はしなければなりません。
実際に冒頭のような要求を受けた場合は、「いきなり売上の1%は難しいので、まずはできることから始めます。どうかご理解ください」といったコミュニケーションをとるのが自然だと感じています。(この観点で、私はオレンジの派閥です。)
青色の選択をされる方は、投資家に対してはどのようなコミュニケーションをとる想定なのでしょうか。発行体の視点に立つと、投資家数ベースで25%から「反対票を入れるぞ」と言われている状態で、安易に黙殺するのは相当に怖いように思います。
どういう結果であれ、投資家に対する丁寧な説明は必要です。青の選択をする場合でも、「67%以上の賛成を得られそうなので、あなたがたの意見は聞きません」という説明では、喧嘩になってしまいます。
ESG以外の場合はどうか
Q3では、これが株主還元の要求だった場合にどう考えるかについてです。
24%の方は、少数派の意見は聞くべきでないというスタンスのようです。還元するなという主張はやりすぎに思いますが、これも古い感覚なのでしょうか。
確かに、「株主還元は自発的にやれ、ESGは多数派から要求されない限りやるべきでない」というのは、考え方によっては不公平なようにも思います。要求されない限りESG対応をすべきでないというのなら、要求されなければ還元品というのも、筋は通っています。
さて、大多数は「発行体が決めればよい」という回答です。こちらは言及するまでもないでしょう。
最後は、どうであれ還元は行うべきという主張です。ESG対応は「少数派なのでやらなくていい」といったくせに、株主還元は少数派であってもやるべきだという主張です。二枚舌なところも含めて、ややアクティビスト的ですね。15%くらいはそういった投資家もいらっしゃるようです。
実務について
選択肢の設計がうまくなかったのですが、個人的には、ESG対応と同じようなコミュニケーションをとるのが自然だと考えています。「一定程度の自社株買いについては前向きに検討するが、現金をすべて還元するということは考えていない。事業の成長資金を考慮して、適切な還元を行う予定である。」といった説明でしょうか。
余談ですが、貸借対照表上の現金は、思ったよりも余剰していないことが多いようです。「売上のX%が最低限預金だから、残りは余剰しているはずだ」みたいな分析をする金融機関の人は多いのですが、現実はそこまで単純ではありません。
売掛と買掛のタイミングによって、期中のどこかでは現金がかなり少なくなっていることも多いそうです。もちろん、大して余っていないだけで、ピンチになっているわけではないと思います。
ESGと株主還元の比較
「少数派からの要請であってもESGに対応すべきだ」と回答した人と、「少数派からの要請であっても自社株買いはすべきだ」と回答した人は、さすがに重複していないと思われます。この2つともを選んだ人は、さすがに天邪鬼の印象です。
さて、両者が重複していないと考えると、議決権関連については以下のように整理ができます。
青い部分は、「少数派の要求であっても、EPSを犠牲にしてESGを推進すべき」という意見です。相対的に見れば、やや過激派の意見だと言えます。グレーの部分は、「ESGは少数派の意見なので対応不要だが、株主還元は少数派であってもやれ」というものです。こちらも過激な意見に見えます。
個人的に面白いと感じたのは、ESGの過激派のほうが、株主還元の過激派よりも多いということです。個人的な予想では、株主還元の過激派はもっといると思っていましたし、ESGの過激派はもっと少ないと思っていました。
もっとも、過激派とはいっても、どちらも10%以上いらっしゃいますので、極端な少数派ではありません。「代表的な少数派の1つ」くらいのニュアンスです。
所感
全体的に、予想とは少し異なる結果でした。
当たり前といえば当たり前ですが、意外と議決権を重視している方が多いようです。「合理的に経営している限りにおいて、少数派の意見に振り回される必要はない」くらいの意味合いでしょうか。
この点について、上場企業の取締役から見た議決権比率と、一般人から見た議決権比率には、少し乖離があるのではないかと予想しています。
私を含む一般人は、「3分の2以上の賛成があれば可決じゃないか」くらいに捉えている人が多いと思います。一方で、(n=1桁前半ですが)上場企業の取締役の方は、「1%であっても反対されたくない」くらいに考えているようです。
見えている世界が全然違うでしょうから、説明されても共感するのは難しいのだとは思いますが、取締役の方々の考え方が気になるところです。
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