アメリカの航空母艦の「リアル」
アメリカの航空母艦 資料写真集 1920s-1945 好評発売中。
今回は艦船模型モデラーでもあるモデルアート編集部 内藤が本書の魅力を解説!
1942年12月8日に勃発した太平洋戦争は開戦劈頭の真珠湾奇襲、マレー沖海戦、翌年5月に史上初の空母対空母の海戦が生起した珊瑚海海戦に象徴されるように航空機を主兵力とする戦闘であった。勿論、艦砲と魚雷を撃ち合う海戦も生起しているが、戦争が進むにつれて、水上艦艇が作戦を遂行するためには航空機の援護を必要とし、常に航空母艦や陸上基地から発進する航空機の脅威に曝されていた。
ご周知のとおり、世界海軍史上初となる兵力の主力に航空母艦とその艦載機を据え、多数の護衛艦で艦隊を編成する「空母機動部隊」を編制したのは日本海軍である。しかし、太平洋戦争中に「空母機動部隊」をもっとも効果的かつ、テクニカルに運用したのは、実は米海軍である。真珠湾攻撃で戦艦部隊を失い、当時は未だ明確な運用方法が確立していなかった航空母艦を主体とした艦隊を急ぎ編制し、それがその後の戦局に大きく寄与したことは戦史を見れば明らかであろう。
さて、本書の紹介である。
日英海軍の航空母艦のように、実用性が低かった三段式甲板(のちの宇宙では流行ったようだ)や縦式着艦制止索を採用した迷走期を過ごすことなく、のちの空母の布石となる全通式飛行甲板を備えた艦型と発着艦設備を備えた米海軍初の空母「ラングレー」から、太平洋戦争中に大量建造された護衛空母、多くのパイロットを育てた外輪動力の練習空母ウルバリン級までを収録している。
実艦写真のプロフィールを示す全形、艦橋や飛行甲板周囲、格納庫内部ディテールが鮮明に分かる実艦写真を誌面が許す限りの大判で掲載している。モデルを製作する上で、資料写真の版が大きいほど、求める形状やディテールが手に取るように分かり、とても資料性が高い内容だ。また艦載機にも多くのページが割かれている。“空母先進国”らしく、効率の良い運用を考慮した飛行甲板上の艦載機の配置、飛行甲板から張り出したアウトリガーに配置された艦載機などの写真は、一歩先を行く空母キットを製作する上では格好の資料となるだろう。河野氏の詳細なキャプションをつぶさに読み解くことで、米海軍の航空母艦に対するイメージがガラッと変わるだろう。
艦船モデラーのみならず、米海軍機好きなアヴィエーションモデラーにもオススメしたい内容だ。
米国が持つ他国を寄せ付けない圧倒的な工業力、先進的な電測兵装を開発するテクノロジー、続々と製造される艦船、航空機に配置される豊富な人的資源を改めて実感できる。
文:内藤 純一(月刊モデルアート編集部)
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