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新宿方丈記・5「化学反応」

カメラがデジタルになって久しいが、デジカメがどうも好きになれず、その頃から急速にカメラに興味を失ってしまった。私が学生時代からずっと使っていたのは古い、マニュアルしかない一眼レフカメラで、そのせいかオートで写真を撮るのが苦手。この天気なら絞りがこのくらいで、それならシャッタースピードはこのくらい、と自分で加減して撮るのが楽しかったし、その方が失敗も少なかった。要は進化についていけてなかったということなのだと思う。

暗室作業も大好きで、夜中にカーテンの内側にさらに黒い布を貼り、赤いランプをつけて、床に広げたブルーシートに金属のバットを3つ並べて紙焼きをしていた。焼き付けた印画紙は、最後に水を張ったバスタブに放り込む。太陽が登るまでが勝負。明け方には床いっぱいに印画紙を並べて干し、眠りにつくのだ。あれは楽しかったなあ。高校までは化学なんて大っ嫌いだったのに、温度と現像時間のデータを取ったり、今思うとよくマメにやっていたものだと感心する。人間って、好きなことだと苦手を通り越してしまうんだろうな。情熱の勝ち、というか。

スマートフォンでは人形の撮影が上手くいかなくて、いよいよデジカメ購入検討するか…と思案しながら、クスッと笑ってしまった。デジカメならもう写真を撮ったとしても、現像しなくていいんだよね。ちょっと寂しいなあ。まあ今住んでいる部屋は、物凄く陽当たりが良くて朝がくるのが早いから、暗室作業には向いてないと思うけど。あのフィルムカメラの、現像するまで「もし写っていなかったらどうしよう」っていうドキドキや、現像液と停止液の化学反応が生み出す美しいモノクロを思い出すと切なくなるな。暗室のあの独特の酸っぱい匂いだけは、あまり好きにはなれなかったけれど。





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