ネットワーク配線の仕組みと問題解決方法

結論

  • ネットワーク不具合の原因は多岐に渡るため、問題箇所を切り分ける必要がある

  • NUROやマンションタイプの回線で時々遅くなる場合は回線契約の変更で改善する可能性がある

  • 戸建て回線で時々遅くなる場合はIPoE(IPv6)タイプへの変更で改善する可能性がある

  • 10Gbps回線は混雑影響を受けにくいため、屋内がすべて1Gbpsの機器でも多少メリットはある

ネットワークが遅いと判断する基準

ネットワークの品質は、以下の2つに分類される
・転送速度(Mbps/Gbps表記)
転送速度はダウンロード速度、ネットワーク帯域幅とも呼ばれ、動画視聴の快適さやファイルのダウンロード速度に影響する

・応答速度(ms表記)
応答速度はping値とも呼ばれ、オンラインゲームの安定性に影響する

転送速度、応答速度の詳細は後述する
fast.comにアクセスすることで使用している回線の速度が計測できる

計測終了後、「詳細を表示」ボタンを押すと以下の画面が表示される
ダウンロード(中央の大きい数値)が200Mbps以上、ロード済みレイテンシが10ms以下であれば通常のネットワーク利用(Web閲覧/動画視聴/ゲーム)の品質に問題はない
インターネット速度は近辺住民のインターネット利用状況により変動するため、混雑時間帯(18:00~22:00)は低下することがある
混雑時間帯でも速度やレイテンシに問題がない場合、インターネット回線以外の問題も考慮する必要がある

fast.comの計測結果
中央の大きい数字(ダウンロード速度)、ロード済みの値を確認

ネットワーク配線の仕組み

ネットワークの問題を自力で解決するには、ある程度仕様を理解しておく必要がある
2023年時点で国内60%以上のシェアがあるフレッツ光(光コラボ)と家庭内LANを基準にするため、企業向け回線やホームルーターは構成が多少異なる
ONU(ルーター)を境に、屋外ネットワークと屋内ネットワークに分けて説明する

屋外ネットワーク配線

プロバイダから家までのインターネット配線

フレッツ光は、プロバイダに関係なくすべてNTT東日本/西日本が物理的な配線を行っている
NTTの工事業者が、電柱内のスプリッターから光ケーブルを屋内に引き込み、NTTからレンタルするONUに光ケーブル接続することで自宅回線からインターネットが使用できるようになる
基本的にNTT(フレッツ光)の契約とプロバイダそれぞれ契約しないとインターネットが利用できない
光コラボはプロバイダがフレッツ光の契約を代行するもので、契約や請求がプロバイダだけで済む
光コラボも物理配線に変わりはなく、プロバイダの変更も工事不要で容易にできる
NUROなどのダークファイバー、auひかりなどNTT以外の網を使用した回線は電柱からの配線方法が異なるため、回線変更時に再工事が必要になる
NTT収容局から電柱までは最大4分岐、電柱から家までは最大で8分岐されており、1.25Gbpsの帯域を最大32世帯で共有する

屋内ネットワーク配線

屋内ネットワーク配線

ONUの機種はNTTとの契約時にレンタルする必要があるが、無線付きなどの指定が可能
画像のようにONUとルーターが別々に必要な場合や、Wi-fiルーター機能と複数のLANポートが搭載されたONU1台でWi-fiルーターを使用していない場合もある
白く細い光ケーブルが接続されている機器がONUで、ネットワーク障害時はONUとPCをLANケーブルで直結すると問題が切り分けやすい

PCを使って屋内と屋外どちらに原因があるか確認する

先述のfast.comの計測はルーターから外に向けての速度計測のため、屋内ネットワークの問題を検出するにはPC(Win10/Win11)とルーター間の速度を計測する必要がある
以下の操作を行うことで、PCからルーターまでの応答速度が計測できる

1.キーボードのWindowsキーを押しスタートメニューを表示する
2. cmd と入力してEnterキーを押す
3.コマンドプロンプトが表示されるため、「ipconfig」と入力

ipconfigコマンドの実行結果
デフォルトゲートウェイの値を確認する

5.続けてコマンドプロンプトに
ping [デフォルトゲートウェイの値] -t と入力する

pingコマンドの実行結果コマンド実行後は1秒ごとに1行情報が追加されていくこのコマンドの結果で注目する箇所は「時間」の後ろの値のみで、他の情報は気にしなくて良い

このコマンドは、PCからルーターに対して通信を送り、PCに返ってくるまでの時間を計測したもので、屋内の有線LAN接続であれば0.01秒以下(<1ms)が連続して返ってくる
この時点で時間が20ms以上の場合は宅内ネットワークに問題があるため後述の屋内ネットワークの問題解決方法を参照
応答時間が<1msの状態でもネットワーク不具合が発生する場合は、ping送信先を8.8.8.8(googleのDNSサーバ)に変更して再度確認する

googleのDNSサーバー(8.8.8.8)へのpingコマンド実行結果
インターネット経由のためpingは7〜10ms程度になる

ルーターの応答時間が1msかつ8.8.8.8への応答時間が20msを越える場合は、屋外ネットワークに問題がある可能性が高い
時間により速度が変わる可能性もあるため、複数の日時でpingを実行して記録しておき、プロバイダに応答速度が下がった日付と時間帯をおおまかに伝えることで光スプリッタや網終端装置の混雑を解消して改善される場合がある

無線接続の場合、有線より1〜10ms増加するが、8.8.8.8へのpingが30msを越えなければゲームには支障がない
無線からルーターへのpingが10ms以上になる場合は電波強度やWi-fiルーターの設定に問題があるため、PCやルーターの移動、中継機の追加などで改善する可能性がある

屋内ネットワークの問題解決方法

屋内ネットワークの原因は多岐に渡るため、ルーターとPCを直接有線LANで繋ぎ、それ以外の機器をネットワークから外して動作確認する事をオススメする
この状態でもゲームプレイに支障が出る場合は、まずルーターとPCの再起動と、ファームウェア更新を試す
ルーターへのpingが1msでも不具合が発生する場合、ルーターの設定に問題がある可能性がある
ルーターは誤った設定をすると接続できなくなる事があるため、変更前に設定ファイルを保存や画面キャプチャを取得し、最悪の場合ルーターを初期化しても再設定出来るようにしておく

以下に屋内ネットワーク不具合の一例を挙げる
・(ルーター設定)IPアドレスが被っている
1つのネットワークでは同じIPアドレスが使用できないため、IPアドレスを固定する場合は被らないように管理する
また、ルーターごとにIPアドレスの割り当て範囲(DHCP)が設定されているため、DHCPの範囲外でIPアドレスを固定する必要がある
(DHCP範囲が192.168.1.2〜192.168.1.33の場合、192.168.1.50以降で固定するなど)

・(ルーター設定)ポートが解放されていない
ルーターの標準設定で、セキュリティ強化のため必要外の通信(ポート)をブロックする機能がある
一部のゲームでは特定のポートを開放していないと参加できない、部屋が建てられないなど支障をきたすことがある
ポート以外に、MTU価の設定変更が推奨されているゲームもあるため、不具合が頻発する場合は公式ページのよくある質問などで推奨設定を確認する必要がある

・(屋内配線)LANケーブルやHUBのネットワーク品質が悪い
Cat.5のLANケーブル、Cat.6A規格でも細経や柔らかいケーブルは、本来Cat.6Aのケーブルに必要なシールドが省かれているものが多く、ノイズに弱いためポットや電子レンジなど消費電力の高い家電の近くにケーブルを這わせていると転送速度、応答速度ともに低下する場合がある
フラットケーブルは厚みが増すがシールド付きのものをオススメする

Cat.5のLANケーブルや、10/100Mbpsの記載しかないHUBがルーターからPCまでの経路に1つでもあると、転送速度が100Mbpsを越えられなくなる
fast.comの計測結果が常に95〜100Mbpsになる場合は該当している可能性があり、古いケーブルやHUBを交換する必要がある
HUBやLANケーブルが両方1Gbpsに対応していても100Mbps以上出ない場合は、相性問題や合計距離の問題が考えられる
パンドウイットのLANケーブルはサーバや法人向けのOAフロアでも使用される
少し値は張るが、フロアを跨ぐ場合や配管に埋め込む場合はオススメする
法人向けで多くの配線業者が取り扱っているため、使われなくなったケーブルの新古品がメルカリや秋葉原で安く売られる事がある

・(無線)2.4GHz帯の機器干渉
2.4GHz帯はBluetooth機器やUSBレシーバーの無線マウスでも使用されているため、無線が途切れる、無線マウスのカーソルが勝手に動くなどの現象が起きる場合は、無線ルーターまたはアクセスポイントの設定で、送信チャンネルを変えることで改善する可能性がある
2.4GHz帯は電子レンジの影響を受けるため、電子レンジ使用中にも上記症状が発生する場合がある

・(無線)5GHz帯のDSF
Wi-fiは送信チャンネルが任意に選択できるが、5GHz帯のW53、W56チャンネルは航空レーダーにも使用されており、航空レーダーの発射時(飛行機通過時など)に家庭内無線LANは自動でチャンネルを切り替える仕様になっており、切替中1〜2秒ネットワークが切断される
地域によっては航空レーダーの影響を受けないが、不定期に途切れる場合はW52だけを使用する設定にすることで回避が可能

・(屋内配線)二重ルーター
通常、光ケーブルが接続されたONUがルーターとなるが、市販のWi-fiルーターもルーターになる昨日がある
ルーターは屋内ネットワーク機器の出口のような役割があり、同じネットワークにルーターが2つあるとPCやスマホが出口を探すため不定期に数秒途切れることがある
無線アクセスポイントなどでルーター機能を有効にしている場合、無効にすると改善する
二重ルーターになっているかは以下のページの手順で確認できる

・(屋外配線)NTT回線工事の影響
NTTが光スプリッタの入れ替えや網終端装置の増設などの工事を行うと、一時的に転送速度が遅くなる事や、インターネット接続に失敗する場合がある
ルーターの再起動を行うことで復旧するため、まずは設定を変えず再起動を試す
NTTの工事や障害情報は公式サイトで確認できる
https://flets.com/customer/const2/

NURO(ダークファイバー)の問題

NTTの収容局や光スプリッターは余裕を持って設置されているため、実際は3〜4割しか使用されていない
その空いている回線を活用したものがNUROやauひかりの一部で使用されているダークファイバーである
NUROは、電柱にある8分岐されたNTT光スプリッタの回線に、NURO独自の光スプリッタを電柱やマンション内に追加し、1世帯用の帯域を複数世帯に再分岐している
空いている回線を使用するという名目のため、1世帯以上の速度が出ないため、付近のNURO利用者の影響を大きく受ける
NURO側がNTTから借りるスプリッタのレンタル料が抑えられて価格が安い反面、近くでNUROの利用者が増えると帯域の取り合いになり不安定になりやすい他、混雑する場合は輻輳による回線停止を防ぐためNURO側で速度制限を設ける場合がある
混雑時間帯のみ遅延する場合はNUROに連絡することで、NURO側でスプリッタを再分配してもらえるケースがある
契約時は安定していても、近隣住民のNURO契約数が増えると速度低下する可能性が高いため、オンラインゲームなどで安定したネットワークが必要な場合は避けた方が無難である
2GbpsのNUROも同じくダークファイバーを使用してだが、NTT側で分岐された2世帯分の回線を結合した帯域が8世帯に再分岐されるため帯域不足は起こりにくいが、フレッツ光を直接契約する方が他ユーザーの影響を受けにくい

マンションタイプ光回線契約の問題

マンションには、全部屋の通信回線を集約する部屋(MDF室)があり、マンションタイプの契約、個別契約どちらの場合もMDF室を通す必要がある
マンションタイプの契約は、NTT収容局から4分割された1本(10Gbps)の回線を各部屋に分岐する場合と、戸建て用に8分岐された光スプリッタから1本(1.25Gbps)の回線を分岐する場合がある
前者であれば40部屋のマンションでも問題ない速度が出るが、後者の場合15部屋でも速度が遅くなる可能性が高い
マンションタイプの回線が遅い場合、大家に相談する事でMDF室への引き込みが改善される可能性がある
大家に動いてもらえない場合は、自分の部屋だけ別の回線を引いていいか大家に相談した上で、戸建て用の回線に切り替えることで、電柱の光スプリッタからマンションタイプの回線とは別にMDF室経由で自室に光ケーブルを引ける可能性がある

IPoE(IPv6サービス)の利点

PCから送った情報は、ルーター→NTT収容局→フレッツ網→網終端装置→プロバイダの順で通過する
この中で、網終端装置は最大1万世帯分の通信を各プロバイダに振り分ける処理が発生するため通信が集中し遅延が発生する場合がある
IPoE対応の回線契約またはプラン変更を行い、IPoE対応ルーターに変更することで網終端装置を経由せず通信できるため、応答速度が改善する可能性がある

10Gbps回線の利点

10Gbps回線は一部地域でしか契約できず利用料も高いが、光スプリッタからONUまでの速度を増幅する技術を使い1世帯あたり10Gbps使用できるようになる
1Gbps回線を32分岐すると平均31Mbpsまで低下するが、10Gbpsであれば32分岐しても平均300Mbpsほどが確保できるため、他加入者の影響も受けにくい

物理的には1Gbpsと同じ光ファイバーのため応答速度は変わりがない
転送速度も各種動画配信、クラウドサーバの提供側で1ユーザーごとに100〜500Mbpsほどの速度制限をかけているため、1Gbpsの回線でダウンロードに10秒かかっていたものが1秒でダウンロードできるようなことはない
そのため、2024年時点では近隣ネットワーク利用者の影響を受けにくい点のみが利点である
将来的に4K、8Kのライブ配信が主流になり、各種サービスの速度制限が上がった場合有用になる可能性がある

転送速度(ネットワーク帯域幅)の補足

現在youtubeやTwitchの動画やライブの主流であるH.264形式の動画配信は、フルHD画質で5Mbpsの転送速度が必要だが、3秒間隔(標準設定)で映像を先行ダウンロードする仕様のため、応答速度が多少低くても3秒間で合計15Mbpsがダウンロード出来る転送速度があれば動画が途切れる事なく視聴できる
そのため、応答速度が低い4G回線でも動画視聴には支障がない
転送速度はキーボードの[Ctrl]+[Shift]+[Esc]を同時押しした時に起動するタスクマネージャーの[パフォーマンス]タブから確認ができる

YoutubeでフルHDの動画を視聴した時のタスクマネージャー
3秒置きに15Mbpsほどの通信が発生している

応答速度(ping値)の補足

格闘やFPSといったシビアなオンラインゲームの場合、1フレーム(30ms/0.03秒)ごとに通信が発生する
速度テストで転送速度がいくら高くても、ゲーム中一度でも応答速度が30msを越えた瞬間にラグが発生するため、安定してプレイするには応答速度を常時20ms以下に抑える必要がある
無線LANを使うと屋内だけで5〜10msの遅延が発生するため、屋外ネットワークで許容される遅延の範囲も狭くなる
4G回線はスマホから電柱にある基地局まで無線で通信するため、応答速度は20〜50msと不安定になる
スマホゲームは4Gでの利用を想定して同期間隔を30msより長く設定されている事が多い
オンラインゲームで使用する帯域は1Mbpsにも満たないため転送速度は重要ではないが、OSアップデートなど不意な通信により帯域が不足するため、転送速度が30Mbps以下の場合他でネットワーク帯域が使用されていないか確認する必要がある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?