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休日怪談2「徘徊」

皆様の中で登山がお好きな方はいらっしゃるでしょうか?僕は高校で登山部に入っていたなごりで、今でもたまに山登りを楽しむことがあります。学校で散策していたときとは違って一人で登ることばかりなのですが、その時に起きた話を書かせていただきます。

時期は夏の暑い盛りを過ぎた、9月の中頃だったと思います。僕は地元の近畿地方まで足を伸ばして、久々に山登りをしようと思い外出しました。前日の晩に荷物を揃えて早起きし、電車をいくつか乗り継いで最後はバスで麓まで。ちょこちょこ休憩しながら登ることにしました。
その日は国民の休日などではなく、単に自分の大学の授業がないだけの平日だったので、あまり道も混んでおらず、当然山道も人通り少なく落ち着いた雰囲気でした。しばらく山道を進みます。山登りはそれなりに慣れていましたし、そこまでハードな山でもなかったため迷わず山頂に着いたので、ゆっくりお昼を食べて写真を撮りました。そこまではよかったのですが、空を見ているとき、少し不安になることがあったのです。

視界の端には、それなりに暗い雲の一団が映っていました。
実はこの日の降水確率は40%。あまり登山日和ではありませんでしたが、人も少ないであろうこの日に外出しておかないと次の機会がいつになるかわからないなと思い、少し無理して出てきていたのです。
もう少しゆっくりしたいところでしたが、雨に降られると厄介なので早々に下山することにしました。山頂には自分のほかには誰もおらず、もちろん下山時も人の姿は見えません。さっさと荷物を纏めてしばらく下ったとき、ジャージにジーンズといった服装の男性が下山しているのが目につきました。挨拶しようと思いましたが、生来気安く話せるたちではない僕は、今日初めての登山者に声をかけそびれてしまいました。

さて登山をする人ならご存じかもしれませんが、登山者は山で他の登山者と出会ったとき、顔見知りでなくてもあいさつするという習慣がありますよね。
もちろん出先での礼儀という面が今では強いでしょうが、古くは挨拶が返ってきたものは仲間=「人間」ということを確かめるという点で根付いたものだと聞いたことがあります。昔から山にはたくさんの伝承がありますから、こうした習慣が根付いたのでしょう。
そんなことをぼんやり考えながら山を下って行ったのですが、次に下山者に遭遇した時、僕は目を疑いました。

紺のジーンズに黒のジャージ。先ほど追い越した下山者と同じ服装です。

今度は声をかける心の準備はできていましたが、あまりに同じいでたちだったので、何かヤバい、まさかな、と思い無言で追い抜いてしまいました。だいたい同じ人物を二度「追い抜く」ことはあり得ない。そう思って足を速め、10分ほど下っていったとき、

また同じジーンズとジャージの服装の下山者が、目の前にいました。

この時僕はためらわずに無言で追い抜きました。
三度目なので男性の姿はよく確認できていたからです。通気性の悪そうなジーンズ。袖が手の甲の半分を覆うジャージ。どちらも山に精通している人間ならば身につけるものではありません。そして何より、その男性はザックも何も、荷物を持っていませんでした。

そこから先は無我夢中で山を下りました。途中何人かの下山者を追い抜きましたが、その中に同じものがいたのかはわかりません。だってその時僕の頭にあったのは、

「こいつを追い抜くのはともかく、万一『追い抜かれたら』絶対マズい」

という直感だけだったからです。

あとで登山部の当時の先輩にこの話をしたとき、先輩は俺はそういうのに出くわしたことないからわからんけど、と前置きした後、こう言いました。

「山で、いや山じゃなくてもそういうものに出会ったとき、そいつが通った足跡は絶対に辿ったらあかんぞ。なるべく踏まんように歩くんやで」

みなさんも山を一人で歩くときはお気を付けください。ちなみに僕は山の怪談だと「スイカ」が好きです。ではまた…

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