休日怪談6 「つめはがし」

首都圏などでは話題にならなかったためあまり有名ではないが、夕方過ぎの住宅街には爪剥がしというものが出るらしい。人によって目撃情報には差があるが、灰色(ベージュとも)のコートを羽織っており、ニット帽を目深に被りマスクもつけている。夏でもコートを…というわけではなく、目撃されるのは冬周りでコートが不自然でない時期のみだそうだ。衣服にはバラつきがあるが、初め黒い手袋をはめているのは共通している。
夕方過ぎ帰路に着くころ、住宅街に差し掛かると時折その"爪剥がし"は現れ、目が合うと徐ろに手袋を外す。その指先には一枚の爪も残っておらず、いま生爪を剥がれたかのように真っ赤だそうだ。そして遭遇した人に近づいてきて「手袋を返してください。手袋を返してください」と呟く。腕を掴んでくるので振り払うが、やっとの思いで帰宅すると、捕まれた腕に真っ赤な血の筋が張り付いているのに気づくらしい。目撃情報は極めて少ないため、コートの変質者として処理されることが多いが、そもそもこの爪剥がしが複数存在するのか、一人?の人間なのかは不明である。




数年前用があって帰省した際に、地元の商店街をなんとはなしにふらつくことがありました。休日でもそこまで混雑している場所ではないのですが、その日は商店街の東端、出口付近がまるで満員電車のようにごった返してました。その日商店街を通り抜けたい人は、出口から少し進んだ揚げ物屋の隣の小さい通りから出入りしていたようです。何事かと思って見てみると、その一角にはなぜこの街を訪れたのかわからないくらい知名度のある歌手のワンマンライブが開かれてました。(その歌手の地元というわけでもないはずだが) めったにないイベントのため、その一角だけおしくらまんじゅうになっていたというわけ。僕も例に漏れずその輪に入り、しばらく歌やトークを楽しんでいました。

15分ほど経ったころだったか、後ろから誰かが自分の手首の辺りをギュッと掴んだのです。一瞬驚きましたが、場はとにかく混雑しており、朝の電車並みの人混みの中で振り向くのも難しい状況だったのでしばらく我慢することにしました。その握り方はゆるく、特に痛みがあるわけではなかったので、しばらくの辛抱だと…とはいえやはり気持ちいいものではなく、時間が経つにつれ湿った手で握られるのが不気味に思えてきました。しかし歌手を囲む輪はすでに自分の後ろまで伸びており、イベントが終わるまでその場を動けそうにもなかったのです。
しばらくしてライブが終わり、人混みもバラけてきたとき、初めて自分の手が自由になっているのに気づきました。ずっと意識は腕に集中していたのにどのタイミングで指が離れたのかわかりませんでした。手首を見ると、薄赤色に湿った血のような筋が浮かんでおり、近くにあった惣菜屋さんで慌てて汚れを落とさせてもらいました。

そこで耳にしたのですが、このように腕を掴まれるという事件は、少し前にもあったそうです。昔はもうちょっと商店街も人通りが多く、通りすがりにぎゅっと腕を掴まれ、目を落とすと赤くなっているという現象は目撃されたとのことですが、近年は街も寂れ、人混みと共に怪現象は姿を消していたようです。もう終わったことだと思ってたけどなぁ…と店主さんは述べていました。
その表情が恐怖に怯えるものではなく、懐かしい思い出に浸るようだったことが、印象に残っています。もしかすると怪現象の主は、もともとこの街の住人だったのかもしれません。

この体験をした土地は、上記の爪剥がしが目撃された場所とは微妙に離れており、同一のものなのかは判断がつきません。自分の体験から調べて見たところ、こういった都市伝説が見つかったのです。
近畿圏、特に滋賀の周辺で似た体験がある人はお話を聞かせてくだされば幸いです。

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