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休日怪談5「卒業生」

これは高校時代、友人が経験した話です。
彼女は当時文章創作系の部活…正確には同好会に入っていました。大雑把に言えば文藝部ですね。そこで短い小説を書いたり、人によっては自作の詩にイラストをつけたりといった活動をしていたようです。
部室は本校舎から少し離れた一つの棟にありました。創作サークルと手芸部、アンサンブル部といった文化系の部室と、運動部の倉庫がまとまっている棟になっていました。
いつも授業が終わったものから部室に集まり、めいめい小説を書くなどしていましたが、上記の通り非常に自由度が高く、まあゆるい同好会でした。そのためお菓子を焼いて持ってくる部員や、部室でテスト勉強を始める部員などもおり、部活に関係のないことが大幅に容認されていたとのことです。
さてこの部室にある日から、「雑記ノート」と呼ばれる一冊のノートが設置されました。一日のうちに起きたとりとめのないこと(授業中寝て注意されたとか)を部員が好きに書いていくというもので、シンプルな割によく利用されていたシステムでした。
その友人も雑談まがいのことをよく書いていたのですが、しばしばその書き込みに「返信」が来るようになりました。例えば友人が「朝起きるのしんどかった」と書いたら、すぐそばに別の字で「早起き、大変だよね」と書かれているという具合です。これはさほど珍しいことではなく、これ以外にも「返信」が来ることは何度かありました。しかし友人には、あることが引っ掛かったのです。

この送り主は誰なのか。

記名式ではないとはいえ、これまでの返信相手には予想がつきました。文字の感じでもわかりますし、返信を書いた本人は、たいていその話を口頭でもしてくれていたからです。
友人への「返信」は、以前の倍以上に増えており、今やどの書き込みにも一言は必ず書かれているという状態でした。
少し気味の悪くなった友人は、仲良くしている部員に尋ねました。

「ねえ、この字が誰の文字か分かったりする?」
「さあ…あんまり文字じゃ判断できないかも。私やK(同級生)の字じゃないとは思うけどね…」

同級生のものでないと分かった友人は、当時の部長に尋ねることにしました。当時1年の友人は先輩の名前をすべて把握できてはおらず、話したことのある先輩であれば認識しておくべきだとの思いもあったそうです。
とはいえ、その部長も首を傾げていました。

「こんな字の奴は記憶にないなぁ…部誌まとめるのは俺がやってるから、手書きの文字を見てわからないことはないと思うけど…」
「そうですか…」
「ごめんな…」
すいませんでしたとノートを取ろうとした瞬間、ノートの反対側を持つ部長の力が強まりました。

「待った」
「…!?何ですか!?」
「俺この字、見たことあったわ」

部室の倉庫をおもむろに漁る部長。年賀状や手紙を閉まっているロッカーです。差出人は卒業生や、転勤した顧問の先生。

「あった…これや」

先輩が手にしていた一枚の年賀状?には、ノートの「返信」と同じ文字が並んでいました。少し癖のある、丸文字よりの右上がりの字。

20xx年卒業 〇〇

その日付によると、〇〇先輩は友人の入学より4年は前に卒業していたそうです。
「この先輩…よく卒業後も遊びに来られるんですか…?」
「わからん…俺も見たことはないからな、いや一回だけあったっけ。俺が入学したとき、当時の部長さん(Tとします)の先輩で、学祭にきてたはずや」

現部長いわく、○○先輩には部活で人間関係のトラブルがあり、唯一仲の良かったTさんと一度だけ学祭に来たものの、それ以降は姿を見せなかったらしいです。

なぜその人の文字がノートにあったのか、なぜ会ったこともない友人へ多数の返信があったのか、いずれもわかりません。

〇〇先輩の所在は、OBOG会でも数年つかめていないそうです。今もなお。

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