3秒間の相棒と、ぼくは空を飛んだ
「ヨシ、今日こそは成功させるぞ! あの雲の向こう側まで行ってやるんだ。さあ、キミには期待しているからね」
家から持ち出した大きな青い傘クンに話しかけると、ぼくはその相棒の翼を広げ、両手でしっかりとハンドルを握った。
そして遠くの空のほうをまっすぐ見据えると、迷うことなく「エイヤ!」と2メートルほどの高所からジャンプした。
「うわー!」
3秒間。体は宙を浮いただろうか。3秒間。2秒間。1秒間?
ひょっとして、落ちただけ?
ぼくの体は大量に積み重なった草の上にドサッと落ちた。いつもと同じように。
いや、そんなはずない。前より、ちょっとは飛べたんだ。こうして何度も、何度も、繰り返し鍛錬しているのだから。
1秒間、2秒間、いや、3秒間は。
だけど目標は、あくまで、あの雲の向こう。
「傘クン、残念だけど、キミはクビだ」
ぼくから少し離れたところで、開いたまましょげている青い傘クンを拾う。「仕方ないよ」とねぎらいながら閉じてあげると、傘クンの翼の骨が1本折れ曲がっていた。
ぼくは傘クンを先に穴の外に放り出すと、ヘリに手をかけ「よいしょ」とよじのぼった。
「また新しい相棒を見つけなきゃ」
何度だって飛ぶよ。ぼくは絶対に、あの雲の向こうに行くんだから。
ワタシの実家は中学校に隣接していて、かつて敷地内には「草捨て場」という大きな穴があった。都会の人たちにはイメージしづらいかもしれないけれど、掃除にも「草取り係」なるれっきとした担当がいたのである。
その「草捨て場」に、集めた草を捨てていく。中学生が草を捨てる敷地側は低いのだけれど、住宅地に面した壁側は高いコンクリートになっていた。なんとなく、こんなイメージ。↓
いま考えると、非常にあぶないのだが、壁側に何の柵もなかったので、小学校低学年くらいまでのワタシは、しばしばコンクリートの壁側から傘を広げて穴に向かって飛んでいたのである。(貯まった草は定期的に処分されるため、いつも大量に捨てられているわけではない。つまりクッションになっていた草が少ないときもあったはずで、ほんとアブナイ)
今となっては正確な高さは分からないが、2メートルくらいだったのかな。空気抵抗からだろうか、少しフワリとする感覚があった。
いや! ほんの少しは宙に浮いた(飛べた)瞬間があった! 気がする。
そんな小学生時分の思い出。
当時、自分を「ぼく」と言っていたのでそのままに。
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