「南極点」

 世界で最も過酷な場所にあるケーキ屋と言っても過言ではないだろう。ここはケーキの店「南極点」店名が示すとおり南極点の真上に存在する。店主の極点助(きわみ・てんすけ)だ。彼の半生は波乱に満ちている。東京郊外の裕福な家に生まれた彼は不動産バブルが弾けた瞬間、世界が一変した。土地を買いあさっていた彼の両親は資産家から一転、借金まみれになり自身は日々食べるものにも苦労するようになった。両親の借金を返す為に乗ったマグロ漁船の上で聞いた「南極は誰の土地でもない」という話から一念発起、そのまま漁船をハイジャックすると南極に上陸し勝手に占領、南極点にケーキ屋を立てたのだ。

 Q.なぜケーキ屋を始めたのですか?
 「俺はずっとケーキとか娯楽とかからは縁の遠い生活をしてきた。だからそれを取り戻そうとしてるのかもしれないな。明確な理由はないよ」

 Q.お客さんは来るのですか?
 「調査隊の人がたまに来るね。あとはペンギンとか白熊。金持ってなくてもケーキを食べたい奴が来れば食わせるよ。ここはどこの国でもないから通貨の概念がないんだ」

 Q.勝手に南極点を占拠して問題はないのですか?
 「誰の土地でもないんだから俺の土地でもいいだろ。各国から多分抗議文みたいなものが来るんだけど、学がないから読めねぇんだ」

 ケーキと言ってもなにせものの無い南極点だ。売っているのは「アイスケーキ」と名づけられた塩を振っただけのカキ氷だった。あまり食指は動かなかったが相手は南極を勝手に占領している南極の王である。一つ頼んで一口食べると見ていないときに捨ててしまった。帰る時にニヤリとしながら「みんなやることは一緒だね」と言っていたのでばれていたのかもしれない。
 その後、彼はアルゼンチン軍から空爆を受けて店ごと吹き飛んでしまった。アルゼンチン政府は「訓練として誰の国でもない場所を攻撃した」と発表し、一応日本国籍だった彼のために日本政府は形だけ抗議をしたが、既に水面下で手打ちをした後のように思えた。また南極は誰のものでもなくなった。しかし、私は最近風の噂でまた新しい店が出来たという話を聞いた。今度は南極ではなく北極点の話である・・・。

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